■「スフィア」バリー・レヴィンソン

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 心理学者ノーマン・グッドマン博士は,政府からの緊急要請を受け,太平洋上のある現場へと急行する.そこには古い知り合いの数学者や生化学者たちも招集され,即席のプロジェクト・チームが結成されていた.物々しい軍隊の警戒体制の中,海底基地へと向かう彼らを待っていたのは,謎の球体スフィアであった….

 座に思い浮かぶのは,3本のSF映画の影だ.中盤に現れる巨大なイカが喚起する水中の恐怖は,ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の原作を映像化した「海底二万哩」(1954)へのオマージュ,潜在意識下の恐怖が物質として実体化する設定は,「禁断の惑星」(1956)を直接的な先行例とする.意志と目的を帯びた謎めかしい物体の存在は,「2001年宇宙の旅」(1968)を想起させずにはおかない.

 バリー・レヴィンソン(Barry Levinson)が本作を手がける以前に,「グッドモーニング, ベトナム」(1987),「レインマン」(1988)といった人間ドラマで知られていたことを念頭に置けば,本作のジャンル的な冒険の意図が際立つ.物語全体は深海での恐怖体験という一本の軸で括れるが,場面によってサスペンス調に転じたかと思えばホラー調に流れるなど,トーンの統一感を欠く.

 倦怠に陥らずに済むのは,枢要な三役を担うダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman),シャロン・ストーン(Sharon Stone),サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)の安定した技量のおかげである.閉鎖的な深海施設と潜水艦という画面空間を,三者の演技力が的確に満たしている.スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)が「2001年宇宙の旅」で形而上学的に提示したモノリスは,因果律を体現した物質として,静謐に人類の前に立つ存在だった.

 翻って本作のスフィアは,300年前に沈没している「存在」という時間的メビウスの設定こそユニークだが,人類の無意識に恐怖のループを反復させることは即物的というほかなく,モノリスが湛えていた宇宙論的な普遍性には遠く及ばない.先行する三作品の主題を器用に参照しながらも,それらを超える独自の深度に至らなかった作品である.

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原題: SPHERE

監督: バリー・レヴィンソン

134分/アメリカ/1998年

© 1998 Warner Bros. Entertainment Inc.