■「クイズ・ショウ」ロバート・レッドフォード

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 1956年,アメリカ全土を熱狂させていたテレビの人気クイズ番組「21」で,ハーバートは8週連続勝ち抜いたが,視聴率は低下.スポンサーは,もっと見栄えのよい人間をチャンピオンに据えよとプロデューサーに厳命し,かくして二枚目大学教授チャールズに解答を事前に教えた上で番組に出演させ,連戦連勝させるのだが….

 メリカのテレビ普及を振り返れば,1947年の段階でわずか4万7,500台だった受像機が,1959年には4,400万台を突破していた.娯楽の中心はラジオや映画から急速にテレビへと移り,視聴率がスポンサーと放送局の生殺与奪を握る時代が始まった.本作は,1950年代アメリカのクイズ番組「21」をめぐるスキャンダルを題材に,虚像と実像が錯綜するメディアの構造を描き出す.視聴者は「魔法の箱」と呼ばれたテレビを通じて知性の闘いを目撃しているつもりで,実際には演出と八百長に操作された物語を消費していた.

 週に50本ものクイズ番組が放送される「クイズ・ブーム」は,知識を武器とする競技を大衆娯楽へと変貌させたが,その熱狂を維持するために不正操作が常態化していたのである.映画に登場するステンプルとヴァン・ドーレンの対比は,アメリカ社会に潜むエスニック・アイデンティティと階級意識を鮮明に浮かび上がらせる.ユダヤ系で庶民的なステンプルは実力を持ちながらも,大衆の飽きを口実に退場を余儀なくされる.興味深いのは,バリー・レヴィンソン(Barry Levinson),マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)といった映画人が端役として出演している点である.彼らは自らのキャリアを通じ,映像芸術とスポンサー資本の緊張関係を知り尽くしていた.

 ロバート・レッドフォード(Robert Redford)自身も,スター俳優からリベラル派監督へと転身した人物であり,テレビの虚構性とアメリカ民主主義の真実探求との矛盾をどうにか和解させようとする葛藤が刻まれている.ユダヤ系やカトリック,アイルランド系に対する寛容性の一端を示すWASPの権化のような人物ヴァン・ドーレンの活躍は,生粋のエスタブリッシュメントの復権の意味合いを感じさせる.しかしそれも磐石では当然ない.コロンビア大学講師の肩書きで「芸能人化」の道を歩むヴァン・ドーレンも,TV界の掟と禁じ手の区別がつかなくなり,醜聞の渦中の人となる.

 その時,すでに眼を肥やし始めていた大衆は,知ってか知らずか次のスケープゴートを探す期待の鼓動を打ち始めている.不祥事の当事者ステンプルは立ち尽くす.メディアは社会の断面であるのみならず,世論という名で社会を操作する強大な魔をもつに至ったと感受したためである.番組の不正を暴く立法管理小委員会捜査官グッドウィンは,ジョン・F・ケネディ(John Fitzgerald Kennedy)のスピーチ・ライターとなった.立法・司法・行政の三権に次ぐ第四権力のシグナルを帯びたメディアを抱え,アメリカは激動の1960年代を迎える.

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原題: QUIZ SHOW

監督: ロバート・レッドフォード

132分/アメリカ/1994年

© 1994 Hollywood Pictures Company