■「プロメテウス」リドリー・スコット

プロメテウス [Blu-ray]

 科学者エリザベスが,地球上の時代も場所も異なる複数の古代遺跡から共通のサインを発見した.それを知的生命体からの<招待状>と分析した彼女は,巨大企業ウェイランド社が出資した宇宙船プロメテウス号で地球を旅立つ.2年以上の航海を経て未知の惑星にたどり着いたエリザベスは,冷徹な女性監督官ヴィッカーズ,精巧なアンドロイドのデヴィッドらとともに砂漠の大地にそびえ立つ遺跡のような建造物の調査を開始する….

 化学者アレクサンドル・オパーリン(Aleksandr Ivanovich Oparin)は,メタンやアンモニアに満ちた原始海洋に雷や火山活動といったエネルギーが加わることで生命が誕生したとする「原始スープ説」を提唱したが,この仮説は唯物弁証法の信奉者であったからこそ成立した.生命は偶然と必然の化学反応の産物であり,そこに超越的意志は介在しないという思想である.これに対し,本作では人類の誕生を「作為」をもつ創造主による設計と見なす.

 人類とミトコンドリアを共有する存在"エンジニア"は,地球を巨大な実験室とし,生命を「試験」した.繁栄も淘汰も,エンジニアにとって結果にすぎない.人類の祖先を「創造者」に置き換えることで,進化論を神話へと引き戻す.問題は,壮大な設定が「エイリアン」(1979)との接続部で急激に陳腐化する点にある.2000年前に絶滅したとされるエンジニア種は,エイリアンを究極の生命体として崇拝し,そのDNAを制御しようとして自滅したと示唆される.

 このような説明は,未知の恐怖としてのエイリアンを,生物兵器の失敗作へと矮小化してしまう.廃墟と化した文明にプロメテウス号が到達し,無謀な探究心の代償として次々と乗組員が殺戮される展開は,結局のところ第一作の「前段」をなぞる以上の意味を持たない.舞台となる惑星LV223は,旧約聖書「レビ記」22章3節を仮託した命名であろう.「汚れた身で聖なるものに近づく者は断たれる」という戒めを想起させ,栄光の雲の中から主が現れ,清浄と不浄の規定を授けたという物語は,人類史における宗教的秩序の原型である.

 本作は,約3万5000年前の洞窟壁画という<招待状>をも含め,聖典的想像力が地球外の「創造主」によって形而上的に統御されているという大胆な構図を描く.しかし,この神話的・哲学的素材は,最終的にはSFパニック映画の枠内に収束してしまう.生命の起源という根源的問いと,エイリアンの生理的嫌悪感は,最後まで有機的な接続関係を結び得なかった本作は,オパーリン的世界観を否定し,創造主の存在を仮定することで科学と神話を架橋しようとしたが,その橋は途中で崩れ落ちている.

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原題: PROMETHEUS

監督: リドリー・スコット

124分/アメリカ/2012年

© 2012 Twentieth Century Fox Film