| 第一次大戦の終結まぢか,空前の公債累積にあえぐオーストリアの現状を眼前にしたシュムペーターが,財政の側面から国家の本質・形態・運命の把握を試みた財政社会学の基本的文献.自由経済社会を前提とする租税国家の姿を中世以来の歴史の流れの中に探究し,資本主義の衰退とそれにつづく社会主義への展望を明らかにする――. |
資本主義の力学から国家の存続可能性を解き明かす「財政社会学」の金字塔.中世の領地国家が自らの収入で財政を賄っていたのに対し,近代の租税国家(Steuerstaat)は,私的経済が生み出す剰余価値を吸い上げるだけで,富を創出する機能を持たない「寄生的存在」と見抜く.だからこそ,膨張する国家支出を賄うために課税が限界を超えれば,私的経済の企業者精神を破壊する――租税国家の危機――に達するとヨーゼフ・A・シュンペーター(Joseph A. Schumpeter)は予言した.オーストリア=ハンガリー帝国の崩壊という未曾有の危機を背景に執筆されたこの論文は,100年という時間的隔たりをものともしない知的緊張感を今なお放ち続けている.
本書を理解する上で欠かせないのが,財政社会学の祖ルドルフ・ゴルトシャイト(Rudolf Goldscheid)との論争である.ゴルトシャイトは,戦争によって破綻に瀕した国家を救うためには,国家が自ら資本を所有し利潤を生み出す国家資本主義へと移行すべきだと主張した.シュンペーターは財政社会学という概念を借用しつつも,その処方箋には真っ向から反論した.国家が資本を没収し生産手段を管理することは,かえって富の源泉である企業者精神(イノベーション)を枯渇させ,経済全体を破滅に導くと喝破したのである.国民の精神,その文化水準,その社会構造,その政策が準備する行為……これらすべてが,その財政史に記されている――格調高い一節は,財政思想の先駆的な洞察といってよい.
理論の精緻さとは裏腹に,実践者としてシュンペーターは惨憺たる挫折を喫する.1919年に就任した財務大臣として,1回限りの財産税による国家債務の一掃を試みたが,政治的対立と資本家の猛反発の前にわずか7ヶ月で辞任を余儀なくされた.その後就任したビーダーマン銀行の頭取としても,1924年の株価暴落で銀行を破綻させ,莫大な個人的負債を抱えることになる.天才的な経済学者が最悪の財務執行者であったという事実は,シュンペーターの構築した理論では,現実の政治的・心理的摩擦を御しえない証左となった.現代の文脈で評するならば,盲点と先見性の双方が際立つ.高負担でありながら高い生産性を誇る北欧型福祉国家の成功,インターネット・GPSといったイノベーションを生んだ国家の軍事・科学投資は,租税国家を「寄生体」と断じたシュンペーターの限界論を覆した.
国家は簒奪者の側面だけでなく,民間が引き受けられない不確実性に投資する究極の企業家でもあり得るとの視座が,シュンペーターには欠けていた.それでも本書が鳴らした警鐘の本質は,現代においてむしろ輝きを増している.現代の先進国は,少子高齢化に伴う社会保障費の膨張により,租税だけでは国家を維持できず,将来の租税負担の先送り(国債)に依存している.実質的に,シュンペーターが危惧した「租税国家の限界」を,金融政策(中央銀行による国債引き受け)によって擬似的に延命している状態といえる.本書は,現代の放漫財政論に対する,100年前からの鋭利な批判的防波堤である.
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Title: DIE KRISE DES STEUERSTAATES
Author: Joseph A. Schumpeter
ISBN: 4003414748
© 1983 岩波書店
