| 世界宅配便"フェデックス"の敏腕システム・エンジニアであるチャックは世界中を駆け回り,システム上の問題解決に明け暮れていた.ある日,彼の乗った飛行機が事故を起こし無人島に漂流してしまう.過酷な環境の中4年が経過.ついに彼は無人島を脱出し,文明社会の現実へ戻る.だが,そこで彼を待っていたのは,更なる厳しいもうひとつの試練だった…. |
文明批判,存在論,時間哲学といった深層的主題を孕んだ思索的な寓話である.ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)とトム・ハンクス(Tom Hanks)の2度目のタッグで生まれたこの作品は,サバイバル映画の体裁で「人間とは何か」を静かに問いかける.物語は,国際宅配企業フェデックスのエンジニアが,飛行機事故で南太平洋の無人島に漂着し,4年間にわたる孤独なサバイバル生活を送るというシンプルな枠組みを持つ.だがその骨格の上に積み重ねられるのは,時間と文明,孤独と再生,帰ることができない帰還という,神話的かつ実存的なモチーフの数々である.映画の前半と後半で描かれる「時間」は二重構造をもつ.
文明社会のチャックは,秒単位で時間を管理し「時間が命だ」と言い放つ効率至上主義者として登場する.だが人間社会から隔絶された無人島においては,時間は潮の満ち引きや太陽の角度といった自然のリズムへと回帰する.チャックが持っていた懐中時計は壊れ,時間は身体感覚と自然のサイクルの中に溶けていく.つまり,ここで映画は「時間とは何を管理するものか」「時間の実体とは何か」といった問いを観客に突きつけるのである.無人島での生活を通じて失われていくのは,文明的な秩序や合理性だけではなかった.個人の社会的役割,他者との関係も剥奪されていく.その絶望と危機のシンボルが,チャックが偶然から生み出したバレーボール「ウィルソン」である.
血の手形から生まれ擬人化された相棒は,観客にとっては愛すべき存在であると同時に,他者の存在がなければ正気を保てない心理的危機の表出でもある.撮影は2期に分けて行われ,無人島パートを撮るため製作は1年間中断された.その間,ゼメキスは「ホワット・ライズ・ビニース」(2000)を撮り上げた.一方,ハンクスは空白期間に25キロ以上の減量と日焼けによって身体を変化させ,無人島生活を4年間生き延びた説得力ある変貌を画面に刻みつけた.サバイバル描写には実際のサバイバル専門家が指導につき,ハンクス自身も原始的に火を熾す技術を習得している.物語後半,チャックは救助されて文明社会へと「帰還」する.しかし,待ち受けていたのは喪失の確認にすぎなかった.
恋人ケリーはすでに別の男性と家庭を築き,チャックの存在は「奇跡の生還者」としてしか扱われない.ここで描かれるのは,オデュッセウス的な帰郷神話の転覆であり,帰るべき場所はもはや存在していない.文明社会はチャックを待っていたわけではなく,時間は彼を置いて無情に進み続けていた.チャックの帰還は祝祭ではなく,再び「漂流する(Cast Away)」ことだったのである.アイロニーを象徴するのが,ラストシーンの四つ辻である.方位すら不確かな状況でチャックは道を見つめる.この静謐な場面において,選び直す自由の可能性が提示される.それは希望ではあるが,同時に何も保証されない自由である.人間とは,過去を失ってなお,未来を選び続けなければならない存在という,ある種ストア派的な自己肯定がここにはある.
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原題: CAST AWAY
監督: ロバート・ゼメキス
144分/アメリカ/2000年
© 2000 20th Century Fox and Dreamworks L.L.C.
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