| 1925年,田舎の無名の解剖学者であった著者が,南アフリカではじめて若い頭蓋の発見を発表.人類とことばの起源について,重要な情報に富む20世紀の偉大な発見のスリリングな現場報告.1960年刊の新装版――. |
タンザニアのオルドワイ遺跡から礫石器とともに発見されたジンジャントロプス(1959年)は,猿人アウストラロピテクス類が人類進化の最初期段階とされる通説を決定づけた.しかし,1925年に南アフリカ・タウングで頭蓋骨を発掘した無名の解剖学者レイモンド・ダート(Raymond A. Dart)が示した新説,すなわちこの頭蓋骨こそ《地球最古の人類》アウストラロピテクス・アフリカヌスであるという主張は,当時ほとんど注目されず俗説として片づけられていた.
進化の道筋には断絶,交替,そして漸進的な移行が織り込まれており,直線的な進化モデルはもはや通用しない.無視の歴史は,のちの人類学の理論的進展にとって一種の盲点となったことは否めないが,当時の人類学界はミトコンドリアDNAの分析や分子生物学的手法が確立されておらず,学問領域の専門分化も未熟だった.だからこそ,著者の先見の明を軽視したのは頑迷さでなく,時代背景や技術的制約も影響していたと理解すべきだろう.
いずれにせよ,この見落としは「アウストラロピテクス―ジャワ原人・北京原人―ネアンデルタール人―クロマニョン人」と続く進化連鎖の検証において,本来考慮すべき重要な視点の欠落を招いた.なお,ダート自身は当初,その発見に対して学界から冷遇されたものの,晩年には「人類進化の父」として評価されるようになった.この逆転劇は,科学史における情熱と執念が世界的評価を受けた数少ない例として,人類史の真実を探り当てるロゼッタ・ストーンとなったのである.
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Title: ADVENTURES WITH THE MISSING LINK
Author: Raymond A. Dart
ISBN: 9784622002109
© 1995 みすず書房
