▼『奇妙な論理』マーティン・ガードナー

奇妙な論理 1 (ハヤカワ文庫 NF 272)

 「相対論は嘘である」「進化などなかった」「虹彩を見れば病気がわかる」など,壮大な科学理論から健康上の身近な問題まで,奇妙奇天烈な説を標榜する者は跡をたたない.なぜそれらにたやすく騙されるのか?世に蔓延する擬似科学の驚くべき実態を,科学解説書の第一人者がシニカルかつユーモアあふれる筆致で描く.「トンデモ科学を批判的に楽しむ」態度の先駆を成す不朽の名著――.

 メリカの科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」数学ゲーム部門編集長としての活動を通じて,またCSICOP(Committee for the Scientific Investigation of Claims of the Paranormal:超常現象主張の科学的調査委員会)の代表委員としての立場から,マーティン・ガードナー(Martin Gardner)は科学的懐疑主義を推進する重要な役割を果たした.本書は,半世紀以上にわたって執筆されたものであり,その内容の一部は時代遅れとなっているが,多くの部分は依然として「似非科学のバカバカしさ」を明らかにするための有用な資料となっている.

 学問の新規性は,通常,多方面からの検証と評価を経て初めて一定の地位を獲得するものであり,それには時間と労力が必要である.しかし,珍妙な理論に関しては,科学的検証のプロセスを無視し,信奉者を増やして欺瞞を広めることが多々ある.このような理論は,先見の明を持つ一部の人々によって広められ,大衆を巻き込んでいく.これが続く限り,疑似科学が再生産され続けるのも自然の理である.1920年代から1930年代にかけて,多くの遺伝学者がソ連で活動を制限されたのは,ロシア共産党から「ブルジョア観念論」というレッテルを貼られたためであった.

 科学論を装った「まがいもの」が政治体制に結びついたとき,優生思想とジェノサイドが引き起こされる危険が生じる.キリスト教ファンダメンタリストたちの反進化論(創造科学)も同様であり,ラインのESP実験,シンクレアの透視実験,アポロ計画の月面着陸陰謀論相対性理論の完全否定,主観的な広告文句が羅列されたホメオパシー理論など,根拠,論理,定理のリテラシーを高める必要性を促している.本書で取り上げられている「風説」や「事象」の中には,現在では見かけなくなったものも多いが,その時代性が現代的でなくなったということである.

医学の分野くらい,疑似科学が群を抜いて栄えてきた分野はない.それがなぜかを理解するのは困難でない.第一に医学のいかさま師は-もしも印象的な外見を呈するならば-たいてい非常に多くの金をつくることができる.第二に,もしも彼が誠実なら,あるいは少なくとも一部は誠実なら,もともと彼が治療に成功をおさめることはほとんど確実なのだから,その成功によって彼の妄想はおおいに勇気づけられるだろう.ある場合には,もちろんその医者は徹底したほら吹きである.他の場合には彼は誠実そのものである.さらに他の場合には,気のふれた人の頭脳の中によく見出されるような,誠実といかさまとの,わけのわからない混合である

 人間の騙されやすさを狙う似非科学は,これからも不定型で発生と淘汰を繰り返すであろう.これを踏まえ,盲信を煽るレトリックを記録し,伝承していく意義がある.非合理な論拠で期待と不安を高める誤謬には,合理的な論理で反証していくことが不可欠である.本書は,科学的リテラシーを高め似非科学に対抗するための手引きとして,現代においてもその価値を失っていない.

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Title: IN THE NAME OF SCIENCE

Author: Martin Gardner

ISBN: 4150502722, 4150502730

© 2003 早川書房