■「天地創造」ジョン・ヒューストン

天地創造 [Blu-ray]

 旧約聖書の世界を舞台に,「天地創造」「アダムとイブ」「ノアの方舟」など,誰もが知っているエピソードが豪華キャストと目を見張る映像によって綴られる!旧約聖書の世界を巨匠ジョン・ヒューストンが空前のスケールで映画化したスペクタクル!

 書において神により殺害された人間の数は203万8,344人,悪魔による殺害は10人.地上における悪(人間)を一掃するために神が起こした四十日と四十夜の大洪水を加味すれば,殺害数は2,000万人以上に膨れ上がる.神と悪魔,どちらが人間にとって邪悪な存在であるか論を俟たない.旧約聖書における絶対唯一神ヤーウェは身勝手で嫉妬深く,恣意の殺戮を平然とやってのける.自分に似せて造った「アダム」(土),その肋骨から生み出された「イヴ」(生命)の堕落をもって,原罪は人類にもたらされたとする真理.これに疑義を差し挟んではならないという原理主義は,横暴に思われる神への信仰を,いかなる時も忽せにするなという強迫的観念である.

 愚昧であることを前提に造型された人間の思案など,塵芥に等しい絶対的「優位」.そこに群がり有難がって拝伏するマゾヒズム.確かに,これは立派な麻薬であろう.愚かでどうしようもない人間,その人間に及ばない知能レベルの動植物,これらを戯れに殲滅するもしないもヤーウェの意思ひとつという世界秩序は,不条理という意味では世界の本質を衝いている.「創世記」は全50章からなる.本作は,天地創造,アダムとイヴの楽園追放,カインとアベルノアの方舟バベルの塔までの「天地創造と原初の人類」.そしてソドムとゴモラの滅亡,イサクをささげようとするアブラハムまでの「イスラエルの太祖たち」を描く.

 後半の章「イサクの生涯」「イスラエルと呼ばれたヤコブの生涯」「ヨセフの物語」は省略されている.製作のディノ・デ・ラウレンティス(Dino De Laurentiis)は,本作を聖書シリーズ第1弾の予定で,次回作の構想を練った.しかし興行面でシリーズ化が危ぶまれたため,続編は実現しなかった.本作で取り上げられた神話的伝承は,すべて人口に膾炙した.そのハイライトを手際よく映像化した一面で評価は高いが,この趣向で「モーセ五書」の映画化を続けるのは厳しい.スペクタクル・ロマンの連続は,誰しも知る展開のもとでは効力を減退させるということだ.おそらくキリスト教圏以外の国々のほうが,聖書的世界の映像詩への関心を単純に寄せやすいのではないだろうか.

 思召を疑う行為自体が「冒涜」にあたるとされるなら,論理的には破綻していても黙視を強いられる.教圏では,たとえばグノーシス派や異なる解釈の立場が強かったりするために,プロパガンダに対する批判やバイアスが高まりやすい面は否めない.旧約聖書を正攻法で描き切ろうとする使命感は強く伝わってくる作品だけに,「原罪」と「神の救済」を脱せず――またそこから逸脱してはならない――映画化の必然性にインパクトが弱かったと評されるのも無理はない.単一のエピソードの羅列的印象もあるが,各場面の作り込みはやはり圧巻.「創世記」イメージの一般的具体化に寄与した映像的意義は,きわめて大きい秀作.

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原題: THE BIBLE...IN THE BEGINNING

監督: ジョン・ヒューストン

175分/アメリカ=イタリア/1966年

© 1966 Dino de Laurentiis Cinematografica