■「エレジー」イザベル・コイシェ

エレジー デラックス版 [DVD]

 黒髪の美しい学生コンスエラとカリスマ的な大学教授デヴィッドは,出会った瞬間から惹かれあった.一夜限りの関係を求めたデヴィッドだが,コンスエラの芸術品のような肉体の虜になり,一方のコンスエラは大人の愛に心を奪われる.生まれて初めて身を焼き尽くすほどの情熱に駆り立てられる二人.だが30歳を超える年の差は男を不安にし,コンスエラはその愛の駆け引きに疲れて,遂に彼の元を去った.しかし2年後,彼女はデヴィッドの前に突然現れ….

 いを若さと対比して嫌悪する感情は,理屈で御しきれるものではない.初老の大学教授デヴィッドは,30も年下の美人学生コンスエラに執着する.社会的な成功を手にする以前の彼は,数多くの女性を手玉に取ってきた男であり,そこでは遊戯としての恋愛が大勢を占めていたに違いない.しかし今の彼には,若い女性を相手に傍若無人な態度を貫くことはもはや叶わない.コンスエラの前途には――振り返れば驚くほど「短い」時間であるにせよ――なお輝かしい可能性が残されており,かつて自分がそうしてきたように,若い取り巻きの男にいつ奪われるとも知れない.

 デヴィッドの焦りは見苦しいまでに露わで,見ている側が痛々しくなるほどである.彼の担当講義はリベラルアーツに属する.テレビ出演ではアメリカの快楽主義について高説を垂れ,講義ではレフ・トルストイ(Lev Nikolayevich Tolstoy)の著作を解説する一方,コンスエラを口説く材料に選んだのはフランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco José de Goya y Lucientes)《着衣のマハ》.詩人の友人ジョージから「あの手の女に深入りすると痛い目を見るぞ」と忠告されても,デヴィッドは聞く耳を持たぬほどコンスエラにのめり込んでいく.

 恋は盲目とはいうものの,若い肉体への欲望と精神的な渇望とを同時に満たすには,彼が抱える劣等感はあまりに致命的すぎた.対照的に,二十年来の自由恋愛の相手を続けてきた別の教え子と過ごす時間の彼は,傍目にも屈託なく自分らしくいられるように映る.それでも満たされないのだから,つくづく自分の欲望に正直な男というほかない.デヴィッドが「完璧な乳房」と評したコンスエラの裸体は,芸術的な黄金比を思わせる均整を備えている.しかし乳癌の発覚から2年,彼女は摘出手術によって女性としての価値を大きく損なうことになると悟る.

 自らの言葉で,身体が手術によって壊される前に,その美しい裸身を写真に残してほしいと彼に願い出る.美しさを失った自分でも愛してくれるのか――この疑念こそ,本作の白眉と言うべきだろう.難病というモチーフを唐突に持ち込む展開には,やや強引さも否めないが,それにデヴィッドがどう応えるかを観客の解釈に委ねた点は評価してよい.あれほど彼を苛んでいた劣等感は,コンスエラに与えられた悲しみによって相殺されたと見るべきか.そうした極限の状況でなければ互いの信頼を担保できない関係が,果たして不朽たりうるのか――複雑な問いは,どこに帰着するのであろうか.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: ELEGY

監督: イザベル・コイシェ

112分/アメリカ/2008年

© 2008 LAKESHORE ENTERTAINMENT GROUP LLC.