■「ピースメーカー」ミミ・レダー

ピースメーカー [DVD]

 ロシアが解体したミサイルの核弾頭10基が奪われ,直後にそのうちの1基が大爆発.ロシアの情勢に詳しい米国防省大佐の男は,核兵器密輸対策チーム所属の科学者の女性と手を組み,回収のため世界じゅうを駆け回る….

 リームワークス・ピクチャーズは,その第一弾として政治アクション・スリラーの本作を世に送り出した.ロシアの核兵器管理の杜撰な実態を暴くノンフィクション的視座がベースにある.SS-18「サタン」大陸間弾道ミサイルの核弾頭がロシアの列車で輸送される冒頭シークエンスは,冷戦終結後の「核の空白」をめぐる90年代の不安を映像化したものと見るべきであろう.テロ犯ガヴリッチを演じるマルセル・ユーレス(Marcel Iureș)は,ブライアン・デ・パルマ(Brian De Palma)「ミッション:インポッシブル」(1996)への出演でハリウッドに足がかりを得たばかりであった.

 ガヴリッチは,ボスニア紛争でサラエヴォの狙撃によって妻と娘を眼前で失った.彼が核爆弾をニューヨークの国連本部に持ち込もうとするのは,西側諸国がユーゴスラビア紛争の陣営に武器を供給し,今また平和の仲介者を気取っていることへの怒りに基づく.爆発後に流れるよう仕掛けたカセットテープに録音された独白――「私は怪物ではない,あなたたちと同じ人間だ」――は,90年代アクション映画のヴィラン・スピーチとして破格の密度を持つ.西側の二重基準を糾弾するガブリッチの言葉は,現実のユーゴスラビア紛争の文脈に照らして相当程度の正確さを持っている.

 問題は,この倫理的複雑性がジャンル映画の文法と根本的に相性が悪いことである.主人公たちにとってテロ阻止は自明であり,その前提を疑う余地は物語上許されない.結果として,ガヴリッチの言葉は道徳的な迫力を持ちながらも,最終的にはアクション映画の「動機づけ装置」として消費される.映画がそのことを自覚しているかどうか,判然としないまま幕を閉じる点が,最も惜しい.モスクワ郊外での列車追跡からウィーンでの市街戦,マンハッタンの終盤まで,各シークエンスは余白を排した直線的なエネルギーで貫かれており,その手際の良さは当時の批評家たちも認めるところであった.

 アルミン・ミュラー=スタール(Armin Mueller-Stahl)扮するロシア側協力者との対話場面でのみ,映画はわずかに速度を落とし,思考の隙間を作る.だが,テレビ的な速度感――観客に考える時間を与えない構成――が,ガヴリッチの発する問いを流し去ってしまう.本作は,9.11同時多発テロ後にABCが放映を急遽中止した.それはこの映画が「あの時代の感覚」を純粋に蒸留していたことの証でもあった.核テロはフィクションの中の脅威,テロリストの動機は物語を彩る装置に過ぎないという,冷戦後の楽観的な世界観であった.

ピースメーカー [DVD]

ピースメーカー [DVD]

  • ジョージ・クルーニー
Amazon

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: THE PEACEMAKER

監督: ミミ・レダー

124分/アメリカ/1997年

© 1997 DreamWorks L.L.C.