▼『一人だけの軍隊』デイヴィッド・マレル

一人だけの軍隊 ランボー (ハヤカワ文庫)

 ヴェトナム帰還兵ジョン・ランボーが保守的な田舎町でゲリラ戦の能力を発揮し警察組織と死闘を繰り広げる.バイオレンス娯楽小説の体を取りつつ,国家が育てた「殺人機械」たる帰還兵が社会から排除される必然的悲劇を描き,戦争の傷跡が国内を蝕む様を告発した――.

 ナダ生まれのデイヴィッド・マレル(David Morrell)は,英文学者という肩書きを持ちながら,本格的なバイオレンス小説を書いて世を驚かせた.その処女作こそ本書であり,後に映画「ランボー」(1982)の原作として世界的な名声を得ることとなる.映画公開に先行すること十年,本作はヴェトナム戦争の傷がなお生々しかった1972年の産物である.元グリーンベレーの帰還兵,ジョン・ランボーという名は,いかにも文学者らしい由来がある.マレルがアルチュール・ランボー(Jean Nicolas Arthur Rimbaud)の詩集を読んでいたある日,妻が「ランボー(Rambo)」という品種のリンゴを買ってきた.

 夭折の詩人の名と林檎の品種名が音の上で合流した瞬間,キャラクターの名が生まれた.短命に燃え尽きた詩人の爆発的な生の残像が,若き帰還兵のキャラクターに暗黙の共鳴を与えていることは確かであろう.マレルは当初,ランボーの年齢を22歳前後と設定していた.本作の表層が,バイオレンスとマン・ハントの趣の強い娯楽小説であることは否定されない.組織的な警察を相手に孤独な闘いを挑むランボーの超人的アクションは圧倒的である.ナイフ一丁で一週間を生き延び,各種武器の扱いから徒手空拳の殺人術まで身に付けたゲリラ戦のエキスパートは,危険を感じるや保安官助手,州兵,猟師,ライフル愛好家を次々に葬っていく.

かれはたったひとりですから,見つけるのは困難です.命令を受けずに自分の判断だけで行動でき,他の分隊と同調する必要もありませんから,すばやく動きまわって銃撃し,移動してどこかほかの場所に隠れ,同じ攻撃をまた繰り返すでしょう

 あまりに際立った戦闘能力は,皮肉なことに,グリーンベレーの訓練方針の正確さを証明する.ランボーを教練したトラウトマン大佐が,特殊部隊の訓練を受けた人間が容易に捕まるはずがないと皮肉交じりに言ってのけるのも,まさにその文脈においてである.本書が告発するのは,ヴェトナム戦争によって国家が「殺人機械」として鍛え上げた兵士の帰還後の末路である.舞台はケンタッキー州の保守的な田舎町である.ランボーのような危険な無法者が受け入れられる余地など,そこにあるはずもない.戦場で生き延びながら,帰還後は社会のなかで事実上すでに抹殺された青年――その孤立は必然の帰結である.

 失業率や犯罪率の上昇として表面化したヴェトナム帰還兵の社会的行き場のなさは,1970年代初頭のアメリカが直面した深刻な社会的矛盾であった.ランボー,ティールズ,トラウトマンが平和な田舎町で繰り広げる死闘は,政治的にはまったく意味のない不毛な衝突である.それでも不可避の戦闘であった.ヴェトナム戦争の爪痕は,深刻なトラウマとなって確実にアメリカ国内を蝕んでいたのだ.「彼らが先に血を流させた,俺じゃない(They drew first blood, not me)」."draw first blood"とは「最初の一撃を加える」,すなわち「先に手を出した」者が誰かを問うイディオムである.一体,誰がランボーを忌まわしき戦場に連れ戻したのか.

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Title: FIRST BLOOD

Author: David Morrell

ISBN: 415040299X

© 1982 早川書房