| 未知の伝染病を絶滅すべく,科学者チームが開発した奇跡の治療法――だが3年後,恐ろしいことが起こり始める.彼らが創り出した生物が恐怖の進化を遂げ,人間の姿に擬態し,人間を含めた捕食者を襲い始める.そして今,絶滅の危機に瀕した街の運命が,創造主である科学者たちの手に委ねられる…. |
ゴキブリの撲滅を目的に開発された遺伝子操作昆虫「ジューダ・ブリード」が予期せぬ進化を遂げ,人間を捕食する巨大昆虫へと変貌するさまを描いたモンスターホラー.恐怖は,進化論的合理性への戦慄にある.ジューダ・ブリードが獲得した擬態能力――後肢で直立し,外套のような体表で人間の姿を模倣するという特性――は,捕食者として最も効率的な戦略である.
ギレルモ・デル・トロ(Guillermo del Toro)が繰り返し作品で扱う主題,モンスターとは人間社会が生み出した産物というテーマが明確に刻印されている.ジューダ・ブリードを生み出した昆虫学者を演じるミラ・ソルヴィノ(Mira Sorvino)がその「母」であるという構図は,フランケンシュタイン的な創造主の罪を踏襲しつつ,さらに都市生態系という大きな文脈に拡張している.舞台となるニューヨークの地下鉄及び下水道,光の届かない閉所空間での追走劇は,クリーチャーの視覚的全貌を隠蔽する演出と結びついており,観客の想像力を刺激する古典的な怪奇映画の手法への回帰でもある.
実際,完成版では未使用に終わったシーンや設定が多数存在し,本作が当初構想していたよりも複雑な生態系――ジューダ・ブリードの幼体や別形態への言及――が編集段階で削られたことは,批評家やファンの間でしばしば話題にされる.デル・トロ自身も,本作については最終的な編集権を持たなかったことへの不満を後年語っており,いわゆるディレクターズカットが,本作の評価を分ける一因となっている.
当時のハリウッド製モンスター映画にしては珍しく,地下で暮らす孤児サニー,彼を保護する靴磨きのマニーといった脇役の存在は,社会の「見えない場所」に生きる人々と,同じく地下に潜むクリーチャーとを重ね合わせる視線を作品に与えており,都市が持つ二重性,すなわち表層の文明と,その下に蠢く制御不能な領域を窺わせる.デル・トロのフィルモグラフィーにおいて必ずしも代表作とは見なされていないものの,後に「パンズ・ラビリンス」(2006)や「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)で結実させる「怪物への共感」というテーマの萌芽を確認できる作品である.
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原題: MIMIC
監督: ギレルモ・デル・トロ
106分/アメリカ/1997年
© 1997 Miramax, LLC.
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