■「エクソシスト」ウィリアム・フリードキン

エクソシスト ディレクターズカット版 & オリジナル劇場版(2枚組) [Blu-ray]

 イラクでアメリカの古生物学者でもあるメリン神父は,古代遺跡の中から悪魔パズズの偶像を発見.それは,不吉な兆候を予感させた.一方,ワシントンで仮住まいをしている女優クリスの一家に異変が起き始めた.一人娘のリーガンが恫喝的な声色で卑猥な言動を発し,その表情も変貌していく….

 開当時,観客が嘔吐や失神を起こし,救急車が出動する騒ぎとなったことが語り継がれている.だが,悪魔的存在が登場するということは,必ずしも分かりやすく恐怖を煽ることを意味しない.ウィリアム・フリードキン(William Friedkin)が構築したのは,信仰の危機としての恐怖だった.物語の前提に置かれるのは,神経科医や精神科医に娘を診せても原因が分からず,最終的に神父に助けを求めざるを得なくなる母クリスの絶望である.

 リーガンに取り憑いた存在の正体は劇中で明確にされないが,それを「悪魔」と呼ぶこと自体,もはや科学では説明できない事態が起きている宣告に等しい.フリードキンは,超自然的な恐怖を描く前に,まず医学的検査の冷徹なリアリズムを丹念に積み重ねた.リーガンが受ける脊髄穿刺の場面は実際の医療技術を用いて撮影され,その生々しさは悪魔の出現以上に観客を不安にさせる.

 カラス神父の造形は,いわゆる勇敢な聖職者像を覆すものだった.母を救えなかった罪悪感を抱え,自らの信仰に疑いを持つカラスが悪魔と対峙するのは,教義への確信からではなく,確信が揺らいでいるからこそ持つ切実さによってである.彼が悪魔を自らの内に引き込み,窓から身を投げる結末は,信仰の証明が常に犠牲を要求するという等価交換に思える.

 撮影現場で実際に火災が二度発生してセットが焼失したことや,リーガン役リンダ・ブレア(Linda Blair)が回転ベッドの撮影で負傷したことなど,製作が呪われたかのような逸話に満ちている.だが,合理的な説明を拒絶し,不可解な力に支配される世界を提示しているからこそ,観客も製作陣も現実とフィクションの境界を見失いやすくなったのだ.本作が半世紀を経てなお恐怖の基準点――原点にして頂点――であり続けるのは,悪魔の恐ろしさを遥かに凌ぐ,信じることの代償を直視させる不穏にある.

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原題: THE EXORCIST

監督: ウィリアム・フリードキン

121分/アメリカ/1973年

© 1973 Warner Bros. Entertainment Inc.