▼『公教育の無償性を実現する』世取山洋介,福祉国家構想研究会〔編〕

公教育の無償性を実現する: 教育財政法の再構築 (シリーズ新福祉国家構想 2)

 日本では,子どもの教育人権を保障する公教育の無償性は,なぜ実現されないままなのか?教育財政・条件整備制度の歴史を根本的に見直し,教育的必要を満たす制度の骨格と財政量を提示.教育財政法の新たな地平を拓く――.

 本の教育財政法制を正面から論じた研究書は稀である.本書は,公教育の「無償性」という憲法上の理念がいかに形骸化してきたかを財政法制の内側から解剖し,その再構築の骨格を提示しようとする,実践的志向を帯びた共同研究である.編者の世取山洋介(故人)は新自由主義的教育改革への批判的研究で知られており,本書は教育財政学・憲法学・教育政策論を架橋する学際的構成をとる.

 複数の視角を一書に束ねることは,知的豊饒さと引き換えに論述の均質性を損なうリスクを常に孕むが,序章が「教育という現物給付」という概念枠を設定することで,全体の問題意識に一定の統一性を与えることに成功している.現物給付(in-kind benefit)という福祉国家論由来の概念を教育に適用する視点は,新自由主義的再編への批判軸となる理論的導入として有効である.批判的に見るならば,本書には二点の緊張がある.

 第一に,財政法制の精緻な記述と憲法規範論との接合が章ごとに濃淡を示している.第Ⅱ部の各章は個別基準の技術論として完結する傾向があり,第Ⅲ部の規範的議論との連絡がやや希薄である.第二に,終章が提示する「新しい法制の骨格」は構想としての説得力を持つ一方,財政調達の具体的メカニズムと政治的実現可能性への踏み込みは控えめであり,政策立案の文脈での即応性には限界がある.もっとも後者は,福祉国家構想研究会という提言型組織が編者に名を連ねながらも,本書が学術研究書である以上,構成上の制約として甘受すべきものであろう.

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原題: 公教育の無償性を実現する―教育財政法の再構築

著者: 世取山洋介,福祉国家構想研究会〔編〕

ISBN: 4272360728

© 2012 大月書店