■「ソウ」ジェームズ・ワン

ソウ [Blu-ray]

 老朽化したバスルームで目覚めた2人の男,ゴードンとアダム.それぞれ足首に鎖をはめられている.2人の間には自殺死体.まったく見当がつかない“状況”に散乱する,テープ・レコーダー,“再生せよ”と書かれたテープ,一発の弾,タバコ2本,着信専用携帯電話,そして2本のノコギリ….

 ちたバスルームに2人の男が目覚める.医師ゴードンと写真家アダムを繋ぐのは鎖と,床に横たわる一人の死体だけ.ジェームズ・ワン(James Wan)が意図的に選んだ「空間の貧しさ」は,総製作費約120万ドル,撮影期間わずか18日間という超低予算の制約から生まれた.広大なロケーションを持つホラーが観客に外の世界という逃げ場を無意識に与えるのに対し,タイル張りの浴室は一切の逃避を許さない.カメラもまた同様に「逃げない」.状況の重さに,じっとレンズを向け続ける.異常者ジグソウ(本名:ジョン・クレイマー)は被害者に直接暴力を振わない.

 状況の設計者であるジグソウは自らを「殺人犯」とは決して呼ばない.彼の論理では,手を下すのは常に被害者自身だからだ.哲学者としての殺人犯という設定は,ホラー映画史において画期的だった.前例として,殺人者は欲望のために,あるいは本能で人を殺す.だがジグソウは理念のために殺す.生を粗末にする者に,その重さを教えよ――倫理的に許されざる手段と,一定の論理的整合性を持つ目的――脚本家リー・ワネル(Leigh Whannell)が仕掛けた精巧な装置は,密室でのリアルタイムの「現在」,タップ刑事の捜査が描く「過去」が交互に織り重なる中で,観客はゴードン医師を徐々に容疑者として認識し始める.

 これは叙述トリックの映像版であり,人は常に「カメラが見せるもの」を真実と信じてしまう.しかしワンとワネルはその信頼を巧妙に利用し,最後の6分間で完全に覆す.結末を「反則だ」と感じる観客ほど,いかに自分が映像の文法に慣れ切っていたかを自覚させられる.エンディングの「ドア閉め」シーンは,わずか一テイクで撮影されたという.照明を急速に落とすタイミングと俳優の動作を完璧に一致させる必要があり,複数テイクを重ねると緊張感が損なわれるとワンは判断した.計算された即興性とでも呼ぶべき演出判断が,あの一瞬の息を呑む鋭さを生んだ.

 本作をゴア映画と片付けることは,あまりにも粗雑な解釈だ.私たちはなぜこの映画を記憶し続けているのか.人間の究極の選択の行方を知りたいからである.観客もまた,ある意味でジグソウのゲームに参加している.スクリーンの外側から他者の苦痛を消費し,安全な場所から生死の選択を楽しむ.ジグソウが糾弾する「他人の苦痛を笑う者」と,どれほど遠いのか.この自己言及的な問いかけが,本作をトーチャーポルノの先駆けとして括られることへの,製作者なりの抵抗線ではないかと解釈できる.

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原題: SAW

監督: ジェームズ・ワン

103分/アメリカ=オーストラリア/2004年

© 2004 LIONS GATE FILMS INC.