| 本書は,1940年米国で刊行されて以来,世界各国で翻訳され読みつがれてきた.読むに値する良書とは何か,読書の本来の意味とは何かを考え,知的かつ実際的な読書の技術をわかりやすく解説している.初級読書に始まり,点検読書や分析読書をへて,最終レベルにいたるまでの具体的な方法を示し,読者を積極的な読書へと導く.単なる読書技術にとどまることなく,自らを高めるための最高の手引書――. |
知的かつ能動的な営みとしての「読書」がもたらす恩恵を,正攻法で説いた一冊.新古典的読書論としての確固たる存在感を放っている.欧米には,要約・分析・解釈・批判のテクニックを義務教育段階から体系的に教授する伝統がある.本書が提示する読書の四段階――初級読書,点検読書,分析読書,シントピカル読書――は,そうした知的土壌の上に根を張った概念体系である.翻って現代の日本では,修士論文がかつての学部卒業論文レベルにまで後退したと嘆く大学教員が少なくない.残念ながら,それは誇張でも感傷でもなく,事実である.
コピー&ペーストによって論証の「擬態」が容易になった時代を経て,驚異的なAIの進化で知に向かう能動性は確実に低減している.むろん,大学の名を問わず真摯な向学心を持つ学生は存在する.しかし問題は,その絶対数の減少にある.理解と分析の基礎的パラダイムが培われるべき学生期に易きに流れれば,本書の造語「シントピカル(syntopical)」――複数の文献にまたがって主題を比較・統合するという読書の最高位――に到達する素地を,みずから潰すことになる.本書は,良書の選定を手引きするものではない.読者の習熟度に応じて読み方は変わり,そのスキルを自覚的に高める姿勢を説く.問題発見能力の凋落を食い止めるためにも,古典読解の意義が改めて問い直されなければならない.
良書の評価には主観と客観の両軸があり,そこに歴史的・社会的影響力や時代的有用性という尺度が交差する.シントピカルに読むに値する著作と,徒に時間を消費させる粗製本とを峻別する眼力は,読書術以前の問題として各人に求められる資質だ.順序として先に問われるべきは,むしろ血肉となる本やメディアの「積極的選別」の能力.視野が狭ければ,「古典」「数理」「芸術」といった分野は不要だという短絡がまかり通る.それを防ぐには,幅広い教養には固有の「価値」があり,かつ多元的に他分野と連動しながら,最終的には有用な識見を導く回路を形成する――いわば素因数分解的な注解が必要になるだろう.
人生観や価値観を揺さぶる「良書」との邂逅は,そう容易には訪れない.人格的に信頼し尊敬できる人物に出会ったとき,人はその美点を吸収しようと自然に努めるものだ.読書もそれと同じである.優れた著作からは多く学べる.そうした精神的メンターとなりうる一冊との出会いを求めて,多くの本に触れる経験が不可欠だ.その「慶福」への志向を啓くことが,知の衰退に抗う最も有効な手立てとなる.叙事詩『オデュッセイア』に登場する老賢人メントールは,主君オデュッセウス不在のあいだは王子テレマコスの教育係を務め,トロイで危機に陥ったオデュッセウスには勝機を導く軍師として臨んだ.時勢を読み,状況に応じて最善の一手を示せる存在があれば,蹉跌の多くは避けられる.
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Title: HOW TO READ A BOOK
Author: Mortimer Jerome Adler, Charles Lincoln Van Doren
ISBN: 4061592998
© 1997 講談社
