| 帰らぬ父.ざわめく心.けれど私には強く優しい母がいた.母は前向きであることの大切さを説き,こう言い続けた.「何があっても大丈夫」.誰しも眼前に大きな壁が立ちはだかることがある.大粒の涙をこぼす日もある.しかし,どんな困難に直面しようとも自分を信じ,全てを良い方向に考え,強く願えば,きっと大丈夫だから……若き日の苦しみや葛藤と真摯に向き合った初の回想録――. |
ソフトな物腰と笑顔のタカ派.不公正を指弾するその言葉は,口調とは裏腹に,常に痛烈な論旨である.筆写による数々の主張の背後には,妥協を許さぬ怒りが静かに燃えている.国際法に背き続ける得体の知れない隣国.あるいは国民を欺き,鵺のように実態を隠匿する国家体制や企業の体質.本書は,論壇での地位を確立する以前の素顔が綴られた,著者初の回想録である.
1945年,旧仏領インドシナ(現ベトナム)のハノイ近郊の野戦病院で生を受けた.敗戦直後という混乱のさなか,父はそのまま帰らぬ人となり,母と幼い娘は日本へと引き揚げた.思春期を過ごしたのは雪深い東北の地――都市の洗練とは無縁の風土が,感受性の基底をつくった.その後,太平洋・アジア研究の拠点として知られ,日系人社会との交流も深いハワイ大学へと単身渡り,孤独と貧困と闘いながら歴史学を修めた.そこで「外から日本を見る」視座を本格的に獲得したという.
帰国後,著者が知遇を得たのは米国の高級紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」東京支局であった.同紙は1908年創刊のキリスト教系メディアだが,宗教的偏向を排した国際報道の質の高さで定評があり,ピュリツァー賞を複数回受賞している.我を忘れそうになるほど上司と衝突したこともあったという.そのたびに,母の言葉が彼女の芯を支えた――「泣いてもいいけれど,涙に溺れては駄目」.感情に飲み込まれることを戒めるこの言葉には,ある種の東洋的な節度と,近代的な意志論が同居している.
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原題: 何があっても大丈夫
著者: 櫻井よしこ
ISBN: 4101272298
© 2014 新潮社
