■「パトリオット」ローランド・エメリッヒ

パトリオット エクステンデッド・カット [Blu-ray]

 長きにわたった戦争が終結.勇士だったベンジャミン・マーチンは農夫となり,良き父親として平穏な日々を送っていた.やがて独立戦争が始まるが,平和主義を貫くベンジャミンは,かつて同志だったイギリス軍との戦いに乗り気ではなく,長男ガブリエルの参戦に苦い顔を見せる.しかし,目の前で次男を殺されたとき,眠っていた戦士としての本能を呼び覚まされ,再び銃を取ることを決意する….

 ーランド・エメリッヒ(Roland Emmerich)に歴史を扱う能力などある訳がない.アメリカ独立戦争という,血と矛盾に塗れた史実を炉に放り込み,「国家の無垢」を鋳造してみせる.主人公ベンジャミンは,フランシス・マリオン(Francis Marion)やアンドリュー・ピケンズ(Andrew Pickens)など複数の実在するゲリラ指導者を一体に溶かし合わせた合成人物.問題は虚構の人物を作ったことではなく,原型を意図的に純化した点にある.史実のマリオンは奴隷所有者,チェロキー族の迫害にも深く加担した.

 ベンジャミンが,アフリカ系の人々を自由意志に基づく賃金労働者として雇う一場面に,建国という行為を道徳的な傷から守ろうとするハリウッドの強固な意志が見える.アメリカが自国の誕生を語るとき,何かが必ず塗り替えられる構造を,露骨なまでに体現している.脚本は「プライベート・ライアン」(1998)のロバート・ロダット(Robert Rodat)が手がけた.当初,主演にはハリソン・フォード(Harrison Ford)へのオファーがあったが,フォードはそれを「独立戦争という複雑な背景を,個人的な復讐劇に矮小化している」と断った.タイトルに「愛国心」を掲げながら,マーティンが武器を取る動機は,息子を殺された憎悪である.建国の大義は,より原始的な感情の乗り物にすぎない.

 本作が復讐譚であることを,自覚していないふりをしている欺瞞が,映画の致命的な不信感になる.憎悪を正当化するために用意されたのが,タヴィントン大佐という「純粋悪」.モデルのバナスター・タールトン(Banastre Tarleton)が残虐な戦術で知られた人物であることは確かだが,劇中の白眉――村人を教会に閉じ込めて焼き払う場面――は完全な創作である.このシーンが第二次世界大戦中のオラドゥール=シュル=グラヌ虐殺を意識的に踏襲していることは,イギリス軍をナチスと同列に置く歴史の歪曲として激しい反発を招いた.18世紀の植民地戦争の残虐性を告発するために,20世紀最大の蛮行のイメージを無断借用する.歴史を感情的に使役するホワイトウォッシングに,本作の醜さがある.

 善良なアメリカ対邪悪な帝国という二項対立には,戦争の複雑さをエンターテインメントへと還元し,観客の怒りを安全な出口へと誘導する意図が透ける.ケイレブ・デシャネル(Caleb Deschanel)の撮影は,サウスカロライナの霧深い湿地と火薬煙に霞む戦場を,フランドル絵画を思わせる密度で捉える.そこにジョン・ウィリアムズ(John Williams)の金管楽器が重なった瞬間,観客の感情は理性より先に動かされるかもしれない.無防備な昂揚こそが,本作の最大の武器であり,最大の欺瞞でもある.メル・ギブソン(Mel Gibson)は,穏やかな農夫から手斧を振るう野蛮な戦士へと回帰していくマーティンを体現するうえで,他の誰にも代えがたい役者だった.狂気を帯びた眼差し,暴力の中に潜む父性の脆さは,この役の矛盾を一身に引き受けている.

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原題: THE PATRIOT

監督: ローランド・エメリッヒ

164分/アメリカ/2000年

© 2000 Global Entertainment Productions GmbH & Co. Movie KG.