| 1950年代半ばの中央テキサスの小さい田舎街.幸せな結婚生活を送るオブライエン夫妻と彼らの子供である3人の兄弟.父は,成功するためには「力」が必要だと考えている厳格な男.母は,自然を愛で慈愛に満ちた心で子どもたちを包み込む優しい女.11歳に成長した長男ジャックの心は,そんな両親の狭間で常に葛藤していた…. |
隠者テレンス・マリック(Terrence Malick)は,テキサスの片田舎に生きた一家族の記憶を微細に掬い上げる断片と,宇宙開闢・生命誕生の荘厳な情景とを,交互に,しかし等価に繰り出す.世俗への順応を強いる父,神の恩寵を囁く母――相反するメッセージに引き裂かれながら成長する子どもの姿は,それ自体としては決して稀有な経験ではない.1950年代半ばの中央テキサスという舞台もまた,永劫回帰の法則のもとでは固有性を剥奪される.
家族の有機的な記憶と天体の無機的な記憶は,因果を統べる超越的存在が人類へ贈った,等しく尊い恩賜.時代・場所・人種を超えて普遍的に成立するのは,神の存在への懐疑であり,その不在への畏怖である.太古の地球と進化の流転を捉えた映像群は,ナショナル・ジオグラフィックのスタッフが膨大な時間をかけて撮り貯めた記録から,マリック自身の手で創造されたものだ.
映画界への20年の沈黙を守り続けた1970年代,彼はすでにプロジェクト"Q"において,宇宙と生命の起源を問う映像詩の可能性を模索していた.旧約聖書ヨブ記の沈思に満ちた引用から始まる本作は,宇宙の果てしない闇,地球の鳴動,大海の奔流,人体の細胞,そして生物の進化の過程を精緻に織り込むことで,繊細にして雄大な映像詩を現出させる.
全篇を貫く「神の視点」とは,深淵なる宇宙の永劫性のなかで連鎖する生と死の脈絡であろう.家族史と地球史に通底する崇高な創造的思念は,哲学者マリックの知性と西欧一神教の宇宙観が静かに邂逅する場である.その世界観を真っ向から拒絶するなら,本作は難解な抽象映像と凡庸な家族情景の退屈な混合物としか映らないだろう.その拒絶もまた,マリックが静かに予期した鑑賞者の応答のひとつかもしれない.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: THE TREE OF LIFE
監督: テレンス・マリック
138分/アメリカ/2011年
© 2010 Cottonwood Pictures, LLC.
![ツリー・オブ・ライフ [Blu-ray] ツリー・オブ・ライフ [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Gzx3kdDpL._SL500_.jpg)