| 謎のウイルスにより人類の99%が死滅した2035年.地下に追いやられた人類を救うため,囚人コールは過去へ送られる.ウイルス散布の首謀者とされる謎の組織「12モンキーズ」を追うが,過酷なタイムトラベルの中で次第に現実と妄想の境界を見失っていく…. |
タイムトラベル映画の大半は,過去を改変し,未来を救うというヒロイズムと楽観主義の上に成立している.だが本作が援用するのは,ロシアの宇宙物理学者イゴール・ノヴィコフ(Igor Novikov)が提唱した仮説「自己無撞着の原則」――過去への介入はすでに歴史の一部として組み込まれており,いかなる意図をもってしても歴史を改変することはできない――である.「逃れられない運命」という主題は,クリス・マルケル(Chris Marker)による短編映画「ラ・ジュテ」(1962)に直接的な範を取る.ほぼ静止画の連続という実験的な映像言語で紡がれた原典が,記憶の断片化と不可避の死というテーゼをテリー・ギリアム(Terry Gilliam)に手渡した.
囚人コールが過去へ介入しようとする足掻きが,皮肉なことに,彼が防ごうとした未来の破滅を形成する不可欠なピースとなっていく.コールは精神科病棟に収容され,タイムトラベラーとしての自己の記憶が「妄想」という疑念に侵食されはじめる.同じ病棟で出会うゴインズは,消費社会やシステムへの鋭利な批判を,狂気のベールに包んでまくし立てる.その言葉が妄言と片付けられるのは,語る場所と語る者の属性が正気の社会の外部に置かれているからだ.ブラッド・ピット(Brad Pitt)の異様なまでに多動で神経質な演技は,禁煙による禁断症状の産物であった.セリフ回しに特異な焦燥感を持たせるため,ギリアムはピットからタバコを取り上げ,ニコチン依存によるリアルな苛立ちを引き出した.
ピットは,テンプル大学の精神科病棟で数週間を過ごし,実際の患者たちの行動様式を身体に刻み込んだという.狂った世界における唯一の正気を体現するトリックスターとして,スクリーンに立ち現れた.ギリアムは本作に,配管やブラウン管モニター,錆びついた機械が乱立するスチームパンクかつレトロフューチャーな地下世界を構築した.雑然たる美術は,テクノロジー進化が人類の救済に直結するという楽観主義への,視覚的な反論である.ギリアムは,過酷な世界の中心にブルース・ウィリス(Bruce Willis)を配置しながら,ハリウッド的ヒロイズムを徹底的に剥奪した.ウィリスに対し,「ダイ・ハード」シリーズで定番となったニヒルな笑みを固く禁じ,「ウィリスがやってはいけない演技のクリシェ・リスト」を作成して手渡したという.
本作の最深部の悲劇は,冒頭からコールの意識にフラッシュバックとして繰り返し浮上してきた「空港で男が銃撃される夢」の正体が明かされるクライマックスに凝縮される.それは予知夢ではなかった.幼い頃のコール自身が目撃した,すでに確定された過去の記憶であった.大人になったコールが銃弾に倒れ,その瞬間を少年コールの無垢な瞳が見つめる.円環は閉じられ,カタルシスをもって完結する.自由意志とは,自らの運命を知らないという無知が生み出す錯覚に過ぎないのか.自由意志への挽歌,あるいは運命を知ることの絶対的な無力を描いた悲劇である.
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原題: TWELVE MONKEYS
監督: テリー・ギリアム
130分/アメリカ/1995年
© 1995 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC.
