| ワルシャワ郊外の緑に囲まれた木造の古い屋敷,その家で愛犬フィラデルフィアと静かに暮らす一人の女性アニェラ,91歳.年老いてなお美しく,そして誇り高く生きる彼女は,戦前に両親が建てたその家で生まれ,成長し,恋をし,夫と暮らし,一人息子ヴィトゥシュを育ててきた.夫はとうに他界し,息子も結婚して家を出ていた.共産主義時代に政府から強制された間借人もようやく出ていき,アニェラは今,さほど長くはない自らの余生と彼女が愛する家をどうするか考えていた…. |
顔や手に深く刻まれた皺,柔和に見えて鋭い眼光.老女アニェラと演じるダヌタ・シャフラルスカ(Danuta Szaflarska)のあいだには,役と人格の境界を曖昧にするほどの共鳴がある.1927年の初舞台以来,芸歴80余年を数える女優のために書き下ろされた脚本は,ユーモアを湛えながらも,古色蒼然とした屋敷に漂う峻厳な気配を手放さない.家族とは明確に一線を引き,愛犬フィラデルフィアとの静かな語らいに慰めを求める.
アニェラは,すでに浪費した時間の大きさと,これから積み重ねられる時間のわずかさを,過不足なく知っている.固陋な老人らしく両隣への好奇心と不満を募らせ,世間への反発を呟くことだけが,この世に留まる細い理由となっている.ワルシャワに生まれ,一世紀近くを生き抜いた身に残された最後の「難事業」とは,老いた体の後始末にすぎない.そうした来し方の重みと達観とが,埃さえも煌めいて舞うモノクロ映像の質感と静かに響き合う.
若き日の追憶,息子一家との確執――すべてを包みこむ郊外の古屋敷は,やがて「棺桶」の役割を果たすべく佇んでいる.老女の最後の願いは,驚くほど穏やかに,意外性もなく叶えられる.しかしアニェラの「決断」により,必然と見えた孤独死は回避される.愛犬ではなく,人の手によって最期を見届けられるという安堵.静かな救済は,観る者にもかすかな神々しさとともに伝わってくる.
アニェラの伴侶たるボーダーコリー,フィラデルフィア.賢い目をした牧羊犬は,映画の上ではメスだが,実際にはオスである.アニェラの語りかけや独り言を含むせりふはすべて脚本に書き込まれ,最初から決まっていたという.それでもフィラデルフィアは,シャフラルスカとの呼吸を寸分の狂いなく合わせ,豊かな表情でスクリーンを満たす.愛犬家には抗いがたい愛らしさを持つこの名優は,その芸達者ぶりを認められ,本作においてグディニャ・ポーランド映画祭の特別賞を手にした.
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原題: PORA UMIERAC
監督: ドロタ・ケンジェジャフスカ
104分/ポーランド/2007年
© 2007 Kid Film, Tandem Taren-To, Telewizja Polska, Polski Instytut Sztuki Filmowej
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