■「酔拳」ユエン・ウーピン

酔拳 HDデジタル・リマスター版 [Blu-ray]

 カンフー道場のドラ息子ウォン・フェイフォンは,真面目に練習しない,町に出れば悪戯ばかりという放蕩ぶり.見かねた父親は息子を改心させようと,カンフーの達人ソウ・ハッイーを呼び寄せた.厳しい修業で知られるソウ・ハッイーの元での修行を強いられたウォンは,酔えば酔うほど強くなる,という秘伝の拳法"酔八仙"を受け継ぐために苛酷な修業に励む….

 踏と武闘を等しく体現し,圧倒的な説得力をもって東洋アクションスターの原型を確立したのは,疑いなくブルース・リー(李小龍)であった.電光石火の蹴りへと変換される軽快なステップは,回転・直線・空中の三軸を縦横に制し,側面蹴りはエキストラが骨折したという逸話も残る.「上善水の如し」――老子が水に仮託した柔軟・浸透の哲学を,リーは肉体のみで体現してみせた.彼の死が残したのは,比類なき遺産と同時に,誰も継ぐことのできない空白だった.

 まったく異なる回路でその空白に挑んだのが,ジャッキー・チェン(成龍)である.7歳で中国戯劇学院に入門し,師・于占元のもと京劇のアクロバティック訓練で鍛え上げた身体は,笑いを伴う巧さを武器に選んだ.本名「陳港生」から改めた芸名「成龍」が"龍になる"を意味した――リー(小龍=小さな龍)を意識――命名であり,2人の関係性は芸名の次元からすでに始まっていたとも読める.本作は,空手道場の怠惰な息子が私怨を晴らすという骨格は単純極まりないが,古典的な中国武侠映画の定型,仇討ちの倫理を逆手に取った軽みとも取れる.

 本来は"酔いを演じて敵を欺く"という虚偽の身体言語を旨とする酔拳に,チェンは実際に酒を飲むという演出を持ち込んだ.「酔えば酔うほど強くなる」というコミカルな逆説は,武術の神秘を喜劇の文法に翻訳する離れ業であった.チェンに酔八拳を授ける師・蘇化子を演じたサイモン・ユエン(袁小田)は,監督ユエン・ウーピン(袁和平)の実父である.父が息子の映画で息子役の師匠を演じるという入れ子構造は,家族芸という粋を超え,技術と血統が継承される図像となっている.

 「プロジェクトA」(1983),「ポリス・ストーリー」(1985)に先行すること数年,本作でチェンはすでに自身の様式を確立していた.活劇の切れ味だけを競えばリーの後塵を拝する.冷静な自己認識こそが,喜劇性・親しみやすさ・スタント精神の三位一体という唯一無二のポジション開拓を可能にした.後年,ユエン・ウーピンが「マトリックス」(1999),「キル・ビル」(2003)の格闘アクションを世界に輸出した事実は,香港娯楽映画が表現的可能性を秘めていたことの,遅れてきた証明でもある.

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原題: 酔拳

監督: ユエン・ウーピン

103分/香港/1978年

© 1978 Seasonal Film Corporation