| 偏見と差別の根強い南部,ミシシッピの田舎町で殺人事件が発生し,近くの駅にいた黒人青年バージルの身柄が拘束された.しかし,実は彼はフィラデルフィアの敏腕刑事で,皮肉にも助っ人として事件解決に手を貸すことになる…. |
アメリカ南部の田舎町を舞台とした捜査劇は,まとわりつくような酷暑の中で進行する.舞台となるミシシッピ州スパルタは架空の地名である.実際の撮影地はイリノイ州の同名の町だが,人種差別が最も苛烈であるとされたミシシッピ州を設定として維持している.本作が製作された1960年代中葉は,アメリカ黒人運動史の激動期にあたる.1965年に黒人投票権法(Voting Rights Act)が成立し,翌1966年にはカリフォルニア州オークランドでブラック・パンサー党が結成された.スローガン"ブラック・パワー"は,ストークリー・カーマイケル(Stokely Carmichael)らが叫び,黒人解放運動に新たな気流をもたらした時代である.
時代の相貌を体現した黒人俳優シドニー・ポワチエ(Sidney Poitier)が切り拓いた地平なくして,後のデンゼル・ワシントン(Denzel Washington),モーガン・フリーマン(Morgan Freeman),マハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)らの活躍は異なる様相を呈していたであろう.本作の先進性は,プア・ホワイトの地方警察より遥かに優秀な黒人刑事を主役に据え,黒人が白人を平手打ちにする衝撃を正面から描いたことが随一である.このシーンは,脚本の初期段階では「打たれっぱなし」であったが,ポワチエ自身が「打ち返すべきだ」と強く主張したことで生まれたものである.
アカデミー賞はこの作品の政治性に対して公正ではなかった.ポワチエの知的で冷静な力演は客観的にみれば明らかに主演であるにもかかわらず,劣等感の裏返しとしてのレイシストであるギレスピー刑事を演じたロッド・スタイガー(Rod Steiger)にアカデミー主演男優賞が与えられている.ただし,ポワチエはこの年,本作以外にも「招かれざる客」(1967),「いつも心に太陽を」(1967)などの大ヒット作に主演しており,票が分散してノミネートを逃したという側面がある.クライマックス的な緊張は,意外にも車中のシーンにある.奴隷制の時代から変わらず綿花摘みに従事する黒人たちの脇を,ビルとヴァージルを乗せた車が走り抜ける.
2人が黒人たちを横目に見るそのまなざしの交差に,沈黙の雄弁さがある.特筆すべきは,ギレスピー家での長い対話場面である.人種の壁を越えた相互理解が芽生えかけた瞬間,ビルは反射的に差別的な言辞を口にしてしまう.その直後,同じ空間に広がる深い虚無感——分離主義的な予感を帯びた断絶は,きわめて実験的な映画的達成だった.本作の公開前後に,デトロイトをはじめとする159の都市で黒人の蜂起が相次ぎ,その時代は「長く熱い夏」と呼ばれた.ブラック・パワー運動は広範な結集には至らず,指導者たちは離散していった.
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原題: IN THE HEAT OF THE NIGHT
監督: ノーマン・ジュイソン
109分/アメリカ/1967年
© 1967 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
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