| 没後10年を経て,ブルース・リーを普遍的アイコンとして総括したアーカイブ.子役のルーツや未公開映像,哲学,次世代への影響を多角的に解剖.アクション映画史の変遷を描き出す…. |
急逝から10年という歳月を経て,ブルース・リー(Bruce Lee)という存在が一人の格闘家から普遍的なアイコンへと昇華していく過程を総括したアーカイブである.1970年代に吹き荒れた熱狂的な「ドラゴン旋風」を,1980年代の冷静な視座によって,リーの遺した断片を編み直している.本作が他の凡百な格闘ドキュメンタリーと一線を画すのは,リーの表現者としてのルーツに光を当てている点にある.多くの観客は,リーを突如として現れた格闘の超人と見なしがちだが,本作は彼が子役時代に出演した「細路祥」(1950)などの映像を提示することで,カリスマ性が血統――父・李海泉は広東オペラの名士だった――と,香港映画の黄金期を支えたベテラン子役としての長年の経験に裏打ちされたものであることを語る.
10代のリーが見せるカメラへの眼差しには,後に世界を震撼させる「静寂の中の怒り」の片鱗が既に宿っている.本作の中盤に挿入される1965年のハリウッドにおけるスクリーンテストの映像は貴重.黒いスーツに身を包み,知的な口調で語るリーの姿は,当時の東洋人に押し付けられていたステレオタイプに対する鮮烈な異議である.リーのアクションは,当時の映画界における舞踏のような振付に対するアンチテーゼであった.提唱したジークンドー(截拳道)は,最大効率の追求であり,その論理を「水になれ(Be Water)」という比喩で補完した.
1984年当時,全世界のファンにとって最大の関心事は,未完のまま遺された「死亡遊戯」(1978)の全容であった.1978年に公開されたパッチワーク版「死亡遊戯」は,代役や過去作の切り貼りに終始し,リーが本来意図した格闘による哲学的啓蒙を著しく損なっていた.本作は,その「失われたパズル」の重要なピースを提示している.カリーム・アブドゥル=ジャバー(Kareem Abdul-Jabbar)との死闘の未公開テイクは,身長差という物理的優位性を,いかにしてスピードと知性が凌駕するかという格闘理論のデモンストレーションである.
製作された1984年は,ジャッキー・チェン(Jackie Chan)がアジアのトップスターとしての地位を固め,サモ・ハン・キンポー(Sammo Hung)がアクション映画の黄金時代を築き上げていた頃,本作はこれらの次世代スターたちが,かつてリーの現場でスタントマンとして活動していた事実を効果的に挿入している.リーという巨星が超新星爆発を起こした後に残された「星屑」が,いかにして新たな銀河を形成したかという,アクション映画史における正統な血統図を描き出したといえるだろうか.リーが遺した「限界を持たないことを限界とする」(Using no way as way, having no limitation as limitation)という言葉は,本作を通じて映像的な裏付けを得た.1984年の時点でこれほど多角的にリーを解剖した作品は他になく,今なおファンが立ち返るべき聖典であり続けている.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: BRUCE LEE - THE LEGEND
監督: レナード・ホー
88分/香港/1984年
© 1984 Fortune Star Media Limited / Bruce Lee Enterprises, LLC.
![ブルース・リー神話 [DVD] ブルース・リー神話 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51raoS-zTzL._SL500_.jpg)