| 元兵士の自堕落な父とふたりで暮らすザックは,憧れのパイロットになるため海軍士官養成学校に入学.鬼教官フォーリーによる厳しい訓練をこなしながら,仲間と友情を育んでいく.そんなある日,盛り場へ出向いたザックは,町工場で働くポーラと恋に落ち…. |
ミリタリー・ロマンスに「階級」「再生」「自己規律」という重層的なテーマを内包した,80年代ハリウッド映画の佳作.酒と女に溺れ,母を自殺に追いやった父を軽蔑する青年ザックが飛び込んだのは,徹底した階級制で個人のエゴを解体し,公共に奉仕する士官を養成する海軍航空士官学校だった.一方,シアトルの製紙工場女工ポーラは,出口のない底辺労働の弛緩した日常に足掻き,士官候補生との色恋だけが町から抜け出す手段になりうる.ザックが直面するのは,自分以外を信じない自身の孤独なプライドの解体であった.
軍曹フォーリーによる徹底的なしごきは,ザックを一匹狼から軍隊組織の一員へと昇華させる必然性をもって描かれている.当初,軍曹役にはジャック・ニコルソン(Jack Nicholson),スコット・グレン(Scott Glenn),ジェームズ・ウッズ(James Woods)らの名が挙がっていたが,リアリティを追求し,結果としてルイス・ゴセット・ジュニア(Louis Gossett, Jr.)が起用され,黒人俳優として史上初のアカデミー助演男優賞を受賞する快挙を成し遂げた.意外なことに,リチャード・ギア(Richard Gere)とデブラ・ウィンガー(Debra Winger)は不仲で,ウィンガーは「ギアは壁に向かって演技しているようだ」と批判し,撮影現場は険悪であったという.
互いを掌握しきれない2人の距離感が,結果として劇中のザックとポーラの,脆くも激しい魂のぶつかり合いに寄与したかもしれない.ザックがどん底からの自発的な脱出を目指し,自身の弱さを認めて他者に心を開き,士官(ジェントルマン)への昇華を果たすのに対し,親友シドは親の期待への服従という他発的動機に縛られ,虚栄心を守るために嘘を重ね,自死による脱落という帰結を迎える.軍隊というシステムが脆弱な者を容赦なく粉砕する現実的な描写を配置し,心理的救済をより際立たせようとするが,内面描写は粗い.
真の主題は,ラストシーンの有名な抱擁へ向かう覚悟――そこに至る葛藤を経た個人の「責任感の獲得」にある.ザックは,フォーリー軍曹の厳格な父性との対決,そして士官養成学校を卒業してポーラを迎える覚悟によって,生活破綻者の父の影を振り払い,真の訣別を果たした.当初,リチャード・ギアはこの結末をディズニー映画のように甘すぎると嫌悪していた.しかし,映画を締めくくる《Up Where We Belong》の旋律が流れたとき,観客はそこに正しく努力した者が,過去を清算し,新しい自分へと生まれ変わる瞬間のカタルシスを見出したのである.
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原題: AN OFFICER AND A GENTLEMAN
監督: テイラー・ハックフォード
124分/アメリカ/1982年
© 1982 Paramount Pictures
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