■「イノセント・ボイス 12歳の戦場」ルイス・マンドーキ

イノセント・ボイス~12歳の戦場~ [DVD]

 わずか12歳の少年が徴兵される激しい内戦下の中米エルサルバドルを舞台に,徴兵に怯えながらも,懸命に日々を生きるひとりの少年の姿を実話を基に描いた衝撃のドラマ.1980年代,エルサルバドルでは政府軍と,反政府組織FMLNとの激しい内戦が繰り広げられていた….

 ルサルバドルの首都サン・サルバドルには,中米統合機構(SICA)の常設事務局が置かれている.1980年代当時,この国は冷戦構造の最前線に位置していた.アメリカが支援する政府軍と,農村を基盤とする左派ゲリラとの内戦は,国家という枠組みを日常から解体していった.物語の舞台となる小村は,政府軍とゲリラの勢力が拮抗する境界線上にある.義務教育を受けているはずの年齢の子どもたちは,内戦という非常事態のもとでは,いかなる制度的保護からも切り離されている.国連の「児童の権利条約」は存在していたものの,当時は15歳未満の兵士動員を明確に禁止しておらず,その法的空白が悲劇を拡大させた.

 政府軍は,12歳に達した少年を即座に徴兵することで,ゲリラへの参加を未然に防ぐ政策を徹底したのである.この内戦は12年間続き,人口約500万人の国家で7万5千人の犠牲者,8千人の政治的失踪者,約100万人の亡命者を生んだ.レーガン政権は「エルサルバドル死守」を中米外交の要とし,ニカラグアのコントラやエルサルバドル政府軍を強力に支援したが,それは結果的に人道に対する罪を黙認・助長する「汚い戦争」への加担でもあった.本作が描く少年兵の問題は,現在でも30以上の紛争地域で約30万人の少年兵が存在するという現実と地続きである.

 11歳の少年チャバの視線は無邪気さと残酷さを同時に映し出す.同世代の子どもが虐殺される一方,徴兵された少年は殺傷技術を身につけた兵士へと変貌する.ゲリラが結束して歌う民衆歌《ダンボールの家》を政府軍が規制するエピソードは,文化や歌声すら敵味方の識別装置に転化する異常性を示している.印象的なのは,12歳の誕生日を迎える少年たちが,徴兵を逃れるため一斉にトタン屋根の上に寝そべり,息を潜める場面である.事情を知らなければ,奇妙なユーモアすら感じさせるこの光景は,極限状況が日常へと沈殿していることを雄弁に物語る.

 内戦は常に銃声が鳴り響く中で,笑いや遊びと隣り合わせに存在する生活様式となっているのである.子どもたちの生き生きとした表情は,失われないはずだった未来の可能性そのものだ.家族の団欒を楽しみ,勉学や遊びに没頭する姿は,虚心坦懐であるがゆえに,かえって痛ましい.なかでもチャバの母を演じたレオノア・ヴァレラ(Leonor Varela)の存在感は際立つ.赤貧のなかで装飾を排した佇まい,常に憂いを湛えた眼差し,眉をひそめた表情の美しさは,母性が抵抗と絶望の狭間で揺れる姿を静かに体現している.

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原題: VOCES INOCENTES

監督: ルイス・マンドーキ

112分/メキシコ/2004年

© 2004 Lawrence Bender Productions