| 『みっともない人体』に続いて読者に贈るルドフスキーの著作.従来の建築史の視野の外にあった地方的,土着的建築物を再評価することにより,人類文明の多様性を積極的に肯定しようとするユニークな建築論――. |
近代建築史が周縁へと追いやってきた「名もなき建築者」たちの知恵を,文明批評として鮮やかに再浮上させる本書は,バーナード・ルドフスキー(Bernard Rudofsky)の主著『建築家なしの建築』へと連なる思想の源流をなしている.知的関心が人間の生活様式へ向かっていたことを明示したルドフスキーは,ドイツ,イタリア,ブラジルを遍歴し,1930年代にはサンパウロで住宅建築を手がけた.
1941年,MoMAの設計競技参加をきっかけに渡米.真珠湾攻撃後,「滞在か帰国か」の選択を迫られながらニューヨークに留まる.偶然の歴史的分岐点が,20世紀アメリカ建築思想の異端児へと押し上げた.ルドフスキーが考察するのは,建築史の正典から排除されてきた民俗建築,土着建築,さらに匿名の集合知である.ルドフスキーにとって建築とは,気候・地形・社会慣習に適応しながら形成された生活の技術だった.西洋建築史がギリシャ神殿やゴシック大聖堂を語る一方,砂漠の集落や山岳地帯の住居を黙殺してきたことに対し,ルドフスキーは冷静かつ皮肉に満ちた筆致で異議を唱える.
後年「建築史はごく少数の文化にしか関心を払ってこなかった」と断じた言葉は,本書ですでに明確な輪郭を持っているようだ.ルドフスキーは,建築と同じ重みで衣服や履物,トイレ,浴槽といった日用品を論じていた.1944年,ブラックマウンテン・カレッジでの講演「人はなぜ,あんな服を着ていて良い建築を期待できるのか」は,聴衆に衝撃を与えたという.現代の衣服を時代錯誤で非合理,身体に有害とまで断じている.
人類が長い時間をかけて培ってきた「無名の合理性」への信頼――環境危機が現実となった21世紀において,エネルギーを浪費せず地域の材料で建てられた建築の知恵が再評価されている状況は,ルドフスキーの先見性を裏づけるものだろうか.本書の文章に通底するのは,生活を少し賢く,少し愉快にするための懐疑である.進歩への盲信を疑ったルドフスキーは,しばしばモダニズムの異端児と呼ばれるが,本書を読めば,否定したのは近代が自らを唯一の正解だと信じ込む態度であったことが理解されるだろう.その指摘は,半世紀以上を経た今なお,驚くほど切実であり続けている.
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Title: THE PRODIGIOUS BUILDERS
Author: Bernard Rudofsky
ISBN: 4306041204
© 1981 鹿島出版会
