| 2009年,トップクラスの科学者のチームは,地球が間もなく滅亡に向かっているという事実をつかんでいた.2012年までにできるだけ多くの人類を救出するようにと世界各国のリーダーからの要請を受けていたが,人類すべてが救出されるのは不可能だということは明白な事実だった.ジャクソン・カーティスが子供2人とイエローストーンに旅行中,偶然干し上がった湖底に建てられた巨大なリサーチ施設を発見する…. |
終末娯楽大作の典型である.シュツットガルト出身ながら,ハリウッド的な映画を撮り続けるローランド・エメリッヒ(Roland Emmerich)は「インデペンデンス・デイ」(1996),「デイ・アフター・トゥモロー」(2004)と,地球規模の破壊を繰り返し描いてきたが,本作はその到達点といえる.マヤ暦の「2012年人類滅亡説」というオカルトめいた素材を最大限に利用し,地殻崩壊,大陸沈没,都市壊滅と,徹底的な破壊描写に全力を注いでいる.だが同時に,エメリッヒ映画の常として,映像以外はまったく記憶に残らない.
「2012年12月21日に人類は滅亡する」とマヤ人が明言した記録は存在しない.「バクトゥン」という時間単位は約394年であり,13バクトゥンでひと区切りとなる.西暦3114年を起点とするそのカウントが2012年で終わることから「終末」と誤読されたにすぎず,本来は新しい周期の始まりを意味する.エメリッヒはこの学術的背景を完全に無視し,「科学 + 神話 = 最大級のパニック映画」という公式を採用したわけである.こうした誤解のエンターテインメント化は,エメリッヒの得意技で,「インデペンデンス・デイ」ではエリア51陰謀論,「デイ・アフター・トゥモロー」では地球温暖化の危機を派手に脚色してきた.観客はそこに科学的正確さではなく,破壊のカタルシスを求める.
本作でホワイトハウスが空母に押し潰されるシーンは,冷戦以降のアメリカ合衆国に対する一種の寓話と読めなくもないが,いかに豪快に壊すかという映像的アイデアの産物にすぎない.ちなみに,ホワイトハウス破壊は,エメリッヒにとっては一種の十八番である.本作において唯一リアリティを感じさせるのは選ばれし者だけが生き延びるという設定である.中国で建造されるノアの箱舟に乗る権利は,10億ユーロを支払える富裕層か,一部の政治・軍事エリートに限られる.地球規模の災厄においても,情報と資本の格差が生死を分けるという冷酷な事実は,ディザスター映画の定番的な家族愛よりも,はるかに観客の現実感覚に響く.この視点は,2008年のリーマン・ショック直後という制作時期とも無関係ではないはずだ.
物語的厚みや人物造形に乏しいため,結局は映像アトラクションとして消費される運命にある.エメリッヒをドイツ出身のスピルバーグと呼んだ時代は過ぎ去り,同様にド派手なアクション以外には何の取り柄もない"ベイ・ヘム"――マイケル・ベイ + 破壊と混乱を意味するメイヘム――と呼ばれるマイケル・ベイ(Michael Bay)と並んで「破壊職人」と揶揄されることも多い.それでも,本作が公開当時に大ヒットした事実は,人類が根源的に終末スペクタクルを欲していることを示している.科学的真実よりも壮大な幻影,倫理的メッセージよりも映像的破壊――エメリッヒはその欲望に忠実であり続ける,ある意味で誠実な映画人なのかもしれない.
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原題: 2012
監督: ローランド・エメリッヒ
158分/アメリカ/2009年
© 2009 Columbia Pictures Industries, Inc.
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