■「PLAN 75」早川千絵

PLAN 75 [Blu-ray]

 少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本.満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施行された.様々な物議を醸していたが,超高齢化問題の解決策として,世間はすっかり受け入れムードとなる.夫と死別してひとりで慎ましく暮らす,角谷ミチは78歳.ある日,高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される.住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める….

 75歳以上に自ら生死を選ばせる架空の制度「プラン75」.制度利用が生む日常の綻び,人間の尊厳が功利主義に擦り切れていく様を描く.センセーショナルな題材を真正面から扱いながらも,感情の拡張と制度の冷徹さを可視化する.角谷ミチを演じた倍賞千恵子は往年の名女優としての佇まいを失わず,静謐な演技を見せる.ミチは制度に追い詰められる被害者,長い人生の蓄積を抱えた一市民であり,その喪失の過程を観客にじっくりと共有させることで,政策の抽象性を具体的な痛みに変換する.

 高齢者の解雇,住居喪失の危機,「選択」をめぐる葛藤を通じて,いわゆる"安楽死"の是非を善悪二元で裁断しない.むしろ問うべきは,なぜ個人が死を選ばねばならないほどに社会基盤が脆弱になったのかという構造である.市役所の窓口で働くヒロム,コールセンターでプラン75の利用者をサポートする瑶子ら若者視点を丁寧に配することで,制度の運用側に内在する微妙な倫理の揺らぎも見せる.行政文書や手続き,ワークフローの日常性が積み重なる描写は,制度が人の命を規格化・管理するプロセスの非人間性を際立たせ,関わる人々の悩みや無力感──「優しさ」が制度の論理に飲み込まれる瞬間──を描く.

 現在進行形の少子高齢化,福祉の市場化,世代間の断絶に対する倫理的考察へと昇華する.ミチの物語は,政策が数値や効率に還元されたときに何を失うのかのディストピア警告と受け止めざるを得ない.映像表現は過度に語らず,日常のテクスチャーを拾うことで感情の蓄積を生む.室内の光の扱い,狭い集合住宅や市役所のカウンター,ホテルの清掃という仕事の手触りといったディテールが映画の現実感を支える.音響面でも無音に近い瞬間を用いて観客の集中を引き寄せ,決定的な場面で声や機械音が痛切に響く.

 これらの手法は,是枝裕和が総合監修を務めたオムニバス映画の香りを感じさせる一方で,長編化に伴うテンポ配分やサブプロットの取捨選択にはわずかな揺らぎが見える.短編ゆえの一撃性を長尺に伸ばす際,幾つかの挿話がやや説明的に感じられる瞬間があるが,それも登場人物たちの内面を補強するための拡張であろう.社会的文脈を踏まえた評価として,本作は選択の前提となる選択を強いる社会の在り方を抉る.少子高齢化が進行する現実の日本において,国家と個人の責任配分,福祉の再設計,人間の尊厳の担保といった議論を不可避にする作品である.

PLAN 75 [Blu-ray]

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原題: PLAN 75

監督: 早川千絵

112分/日本=フランス=フィリピン=カタール/2022年

© 2022 「PLAN75」製作委員会