| 立川談志.そのセンスと頭脳で落語に革命を起こし,優れた弟子を世に送り出した,まさに至宝である.五代目柳家小さんへ入門,寄席・テレビで人気を得,時代の寵児となる.政治の季節を過ごし,芸に開眼.落語協会分裂騒動ののち,自ら落語立川流を創設する.談志が,全幅の信頼を寄せる作家・吉川潮に,波乱万丈の人生を語り尽くした.弟子代表・志の輔との対談も収録――. |
立川談志の猛然たる毒舌は,落語という技能伝承への執念,時事における庶民の憤りを代弁する批評精神が潜んでいた.「人格は最低,芸は最高」という弟子たちの辛辣な評言も,むしろ独特の美学に適っていた.談志にとって,愛想や調和は芸の敵であり,破壊こそ創造の前提だったのである.その芸風は,闘鶏が攻撃対象に挑みかかる瞬間を思わせる.舞い上がる埃の中から何が飛び出すか分からない,まさに"イリュージョン"と呼ばれた芸は,古典落語という枠を超えた.
時事漫談や政治風刺でこそ真価を発揮し,しばしば理不尽に見える不謹慎発言の連発も,毀誉褒貶に左右されない自負,他に迎合しない矜持の表れだった.空気を読みながら無難に振る舞う芸人とは異なる,孤高の作法があった.談志が「イリュージョン」という言葉を多用した背景も興味深い.談志はプロレスファンを自認し,リング上の虚実皮膜を落語の本質に重ねていた.落語は人間の業の肯定であるという理念を掲げ,禅の思想を引用することもあった.
あたしだって,50年以上芸人をやってきた人間ですから,これを言ったら客から非難囂々でソッポ向かれると思えば口にしません.でも高座であたしが言うと,どっかんどっかん受けるでしょ?勿論あたしのキャラクターということはありますが,みな,どこかで今の状態が不健康だということを察知しているし,意識の底で「拉致太り」だと思っている部分がほんの少しだけでもあるんですよ
哲学的素養は,放言癖の裏に,透徹した自己言及の意識を潜ませている.政界進出という異例の経歴も,談志を語るうえで外せない.自民党からの出馬,沖縄開発庁政務次官というポストは,芸人として初の国政参加という意味で画期的だったが,談志は一期で辞職する.短命な政治家生活について,後年「政治は落語にならなかった」と述懐している.つまり,そこには権力や制度に対する違和感があり,最終的に芸の世界に回帰する必然性があったのである.
本書での談志の語りは,信頼する作家・吉川潮との対話によって紡がれる.吉川は,落語立川流の顧問を務めた人物であり,そのヒアリングは技術的には低くない.しかし,時に相槌や過剰な同調が談志の毒気を薄め,語りの鋭さを鈍らせている印象も否めない.むしろ,編者として徹底的に黒子に徹し,談志の独演をそのまま文字に定着させてほしかったという惜しみが残る.
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原題: 人生、成り行き―談志一代記
著者: 立川談志
ISBN: 9784101343358
© 2010 新潮社
