| アメリカ大統領機,エアフォースワンで唯一読まれている雑誌「ニューパブリック」人気ジャーナリストが次々と放った,注目記事41.のうち27の記事が,実は作られたニュースだった!!“THE NEW REPUBLIC”誌編集部で最年少のスティーブンは次々と特ダネを発表.だがある日編集長のチャックは彼の書いた記事に疑問を感じ始める…. |
アメリカの有力誌"The New Republic"(通称TNR)の記者スティーブン・グラス(Stephen Glass)は若干24歳にしてTNRの看板記者となり,同誌史上最年少クラスの成功者と目された.しかし,少なくとも27本もの虚構記事を掲載していたという驚愕の事実が後に判明する.TNRは,アメリカ政治雑誌の中でも最も権威ある一誌に数えられていた.歴代の編集長や寄稿者には,後に政府高官となる知識人,ピュリッツァー賞作家が名を連ねる.そんな媒体で,なぜこれほど大規模な捏造が可能だったのか.本作は,その核心を若きエリート集団の閉鎖性に見出す.
TNRの記者の平均年齢は26歳という異常な若さで,誌面に掲載される記事は,同僚の度肝を抜くような独創性を競い合うインパクト主義に支えられていた.この環境が,グラスの功名心を増幅させ,捏造という劇薬に手を出させたのである.映画の中で象徴的なシーンがある.グラスがジャーナリスト志望の学生を前に,記事が紙面に載るまでの厳格な校閲体制を誇らしげに説明する場面だ.シニアエディターによる一次チェック,事実確認係によるデータベース検索,弁護士による法的リスクの検証,編集長の最終判断――まさに二重三重の防壁があるはずだった.だが防壁は,ニュースソースの信頼性を記者の人格に委ねるという一点において,盲点でもあった.グラスはこの構造的弱点を熟知し,ウェブサイトを偽造し,架空の電話番号まで用意するという執拗さで虚構を現実のように偽装した.
当時TNRは「アメリカの良心」とまで呼ばれる進歩的論壇誌であった.ケネディ政権やクリントン政権の有力な支援者を輩出したことでも知られ,そのブランドは圧倒的な信頼を集めていた.その信頼の高さこそが逆に,検証の怠慢を生んだのだ.ビリー・レイ(Billy Ray)は,グラス個人の欺瞞性と虚構を可能にした空気を冷徹に描き,内部の倫理葛藤に焦点を当てている.編集部内の序列,人間関係,編集長チャールズ・レーンとの緊張関係――ジャーナリズムの危機は,外部の敵ではなく,内部の矛盾から始まることを,本作は示唆する.報道の自由を守るには,まず報道の内部統制が機能していなければならないという皮肉である.本作を観ながら,日本の報道史を想起せずにはいられない.1972年の「西山事件」である.
毎日新聞記者・西山太吉は,日米間の密約を暴くスクープをものにしたが,その情報源が外務省女性事務官であったため,結果として「機密漏洩」「不倫」というスキャンダルで事件を矮小化された.報道の公益性と記者の倫理性が交錯し,評価が揺らぐ構図は,グラス事件と奇妙な共鳴を示す.結局,報道における事実とモラルは,相互に補完しつつも,決して同一軸上にはないのだ.原題"Shattered Glass"は,記者の名であるGlassと粉々に砕けたガラスを掛けた秀逸な言葉遊びである.邦題ではこのニュアンスが伝わりにくく,ガラスの破片といったイメージに留まるのが惜しい.割れたグラスは,記者の虚構が砕け散る瞬間だけでなく,メディアという透明な器に入れられた信頼そのものが割れる音をも意味している.
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原題: SHATTERED GLASS
監督: ビリー・レイ
94分/アメリカ/2003年
© 2003 Lions Gate Films
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