| 昭和19年,戦況の逼迫する中,東京の小学5年生だった風間進二は,富山に疎開することになった.見知らぬ富山の地で,彼に最初に近づいてきたのは,地元のリーダー武.「仲良うやろうやんか」という武だったが,よそ者扱いされる進二を無視するばかりか,彼自身も高圧的な態度に.しかし,隣り町で悪童に囲まれ恐怖に怯える進二を窮地から救ったのも,また武であった.ところが春になり,病欠していた副級長の須藤が復学してからクラスに異変が生じる…. |
ローマ進軍によってファシスト政権を樹立したベニート・ムッソリーニ(Benito Amilcare Andrea Mussolini),昭和初期の日本の軍事政変を彷彿とさせる,ミリタリズムの縮図としての「子ども社会」.特権性と優越性を誇示する階級,小学校時代には単純に武力や学力がそれを規定する.軍国主義は,共和主義者や社会主義者の批判の中から生まれたという.これを純粋に劇作するうえで,過疎地と児童期というステージは非常に効果的だった.
郷愁を誘う題名に,井上陽水の主題歌は少年時代の苦い通過儀礼を多分に演出している.少年たちを取り巻く大人が想像も及ばぬまでに,彼らの流儀には反目と恐怖が噛み合い,支配される者の内部にはルサンチマンが秘められている.クーデターによる武力行使と政権奪取後は,新たな支配体制として議会の停止,言論の統制,反対派の弾圧等が一般化する.権勢を誇り驕れる者の時代は終わり,政治力を駆使した急進勢力がイデオロギーを流布する.
典型的なガキ大将タイプで級長の武が,病み上がりの副級長・須藤に王座を追われるアイロニーを,東京から疎開してきた進二はつぶさに目撃する.かつての「部下」から屈辱を受け四面楚歌に陥った武が,毅然とした態度を貫く姿に進二は感銘を受けるが,時勢に逆らうことのできない哀しみに耐えるほかはない.いまや誰よりも苛酷な境遇となった武が垣間見せた優しさ,勇ましさ,恥じらい――それらは誠実な友情の証だったのだと,進二は深く理解する.
終戦後の東京に帰る日,汽車を追って走る武の姿を進二は見た.鮮やかな緑地,突き抜けるような青空,真っ白い雲,汽車の黒煙.華麗なまでに色彩に富む世界で,ちぎれるように手を振る少年と,「最敬礼」で彼を送り出すもう1人の少年.汽車はトンネルに入り,すべてが暗闇に閉ざされた瞬間,たった1枚の「記念写真」が鮮明に浮かび上がってくる.収斂とカタルシスの秀逸さが燦然と輝くシークエンス.彼らは2度と会うことはなくとも,少年期の後期に差しかかろうとする繊細だが決定的な時期に得た激しい感情を,脳裏と魂に記憶したのである.
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原題: 少年時代
監督: 篠田正浩
117分/日本/1990年
© 1990 「少年時代」製作委員会
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