| 指令を受けて東欧に潜入した極秘スパイ組織IMFのエージェントたち.しかし作戦は敵側に筒抜けで,辛くも逃げ延びたイーサン・ハント以外のメンバーはほとんど殺されてしまう.何者かが自分を裏切り者に仕立て上げようとしていることを知ったイーサンは,陰謀を暴くべく新たなミッションに挑む…. |
ハリウッド大作の典型でありながら,構造的にはサスペンスとミステリーの要素を内包し,観客の知的参与を要求する.ブライアン・デ・パルマ(Brian De Palma)の手腕が遺憾なく発揮され,虚実入り混じるスパイの世界が緻密に描かれている.注目すべきは,TVシリーズ「スパイ大作戦」のリブートやノスタルジアに終始せず,継承と断絶という構造が全面に押し出されており,旧シリーズの象徴だったジム・フェルプスを裏切者として描いた決断は,当時多くのファンの怒りを買った.主演・製作を務めたトム・クルーズ(Tom Cruise)の存在は,本作を特別な作品たらしめている.当時クルーズは興行的にも俳優としても絶頂期にあったが,これが初のプロデューサー進出であった.
クルーズは,パラマウントと交渉し,製作費8000万ドルのプロジェクトを自由に動かせる権限を得た.「この作品を自らの007にする」と周囲に語っていたという.シリーズ化の可能性を視野に入れて企画を練り,冒険と知性のバランスを探った結果がこの第一作であった.有名な宙づり潜入シーンは,視覚的にも映画史に残る瞬間であるが,撮影には困難が伴った.ワイヤーで吊るされたクルーズの身体は,わずかなバランスの崩れで床に接触してしまう.その解決策として,靴の中に1ポンド硬貨を詰めるという方法を取り,重心を調整した.これはクルーズ自身のアイデアであり,完璧主義ぶりと創意工夫が貢献していたかが窺える.終盤のTGV列車上のアクションは,当時としては革新的なCG技術と実写の融合であった.
列車の屋根に吹きつける風をリアルに表現するため,ジェットエンジンの廃棄部品を改造した特製ファンを使用している.クルーズはその強風の中で演技し,瞬きすら最小限に抑えた.これが「ノーCG主義」への第一歩となり,以降のシリーズにおける命懸けのスタントへと繋がっていく.脚本はデヴィッド・コープ(David Koepp),ロバート・タウン(Robert Towne)という異なる気質の2人によって書き継がれた.もともとプロットは複雑すぎて誰も完全に把握していなかったとも言われており,最終版でもなお観客に一定の解釈の余地を残し,一度観ただけでは理解できない映画という批判とともに,繰り返し観る価値があるという評価にも繋がっている.実際,誰がどの段階でどの情報を知っていたかという精密な伏線設計が施されており,再鑑賞することで細部の巧妙さに気づく構造になっている.
音楽面ではダニー・エルフマン(Danny Elfman)が担当し,ラロ・シフリン(Lalo Schifrin)によるオリジナルのTV版テーマを大胆にアレンジした.テンポとリズムの変化に富んだスコアは,緊張感と洗練を同時に演出し,作品の全体的トーンに大きく貢献している.宙づりシーンやクライマックスの列車シーンでは,音楽が観客の呼吸と同調するような錯覚すら覚えさせる.劇中でイーサンが使用するノートパソコンはAppleのPowerBook 5300C.Appleは本作の公開に合わせて製品タイアップを展開し,劇中での「メール送信」がブランド価値の向上に寄与した.奇しくも,スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)がAppleの暫定CEOに復帰するのは本作公開の翌年であり,クルーズと同様,90年代後半における復活と再構築の象徴が交差している点も面白い文化的相似である.
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原題: MISSION: IMPOSSIBLE
監督: ブライアン・デ・パルマ
110分/アメリカ/1996年
© 1996 Paramount Pictures
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