■「DUNE/デューン 砂の惑星」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

DUNE/デューン 砂の惑星 [Blu-ray]

 ポール・アトレイデスには,未来を視る能力があった.だが,その力の本当の意味を,まだ誰も知らない――時は10190年,宇宙帝国の皇帝からの命令で,ポールとアトレイデス一族は〈砂の惑星デューン〉へと移住する.ところが,それは恐るべきワナだった!今までデューンを治めてきた凶暴なハルコンネン家と皇帝が手を結び,民衆から敬愛され勢力を広げつつあるアトレイデス一族を一気に滅亡させようとしていたのだ….

 F映画史における未完の夢の果てに,ようやく結実したスペース・オペラである.映像詩的な完成度は,映像化不可能と評されてきたフランク・ハーバート(Frank Herbert)の原作小説に対し,野心的な回答となっている.製作が始まるまでにはいくつもの頓挫があった.2008年にはパラマウントが権利を獲得しつつも,方向性の不一致により開発中止.2016年になってようやくレジェンダリーが映画化権を取得し,「"Dune"は『スター・ウォーズ』の源泉であり,私はその源を映画化したい」と語っていたドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)が正式に監督に就任する.

 ジョージ・ルーカス(George Lucas)が「砂の惑星」(1984)から影響を受けたという逸話は広く知られており,ヴィルヌーヴにとって本作は本家への「回帰」でもある.原作の前半を描く前提で撮影されたが,製作契約は一本分のみ.つまり本作の成否によって続編の可否が決まるという危うい状況であった.ゆえにヴィルヌーヴは,この作品を壮麗な序章として成立させると同時に,観客をこの宇宙に惹き込む吸引力を必要としていた.その結果生まれたのが,壮大な撮影地選定と,美術・音楽・衣装が一体となったヴィジュアルの緻密な設計である.ハンガリーのブダペスト,ヨルダンのワディ・ラム,ノルウェーの海岸線,アブダビの砂漠といったロケ地は,異星の風景に現実味を与えている.

 ハンス・ジマー(Hans Zimmer)のサウンドスケープは,メロディよりも質感を重視し,砂漠の音そのものを体現しようとしている.時に宗教的な荘厳さすら感じさせるこの音楽は,映像美と融合し,神話的な重層性を獲得することに成功している.主演のティモシー・シャラメ(Timothée Hal Chalamet)は,運命に翻弄される若きアトレイデス役に繊細さとカリスマを両立させた.原作読者にとっては馴染み深いメシア的予兆に満ちたキャラクターだが,その成長のプロセスが丁寧に描かれる.とりわけジェシカ役のレベッカ・ファーガソン(Rebecca Ferguson)との母子関係は,支配と献身,愛と恐れが錯綜し,砂漠のスケールの中でも人物描写が埋没しない.

 本作は第94回アカデミー賞で撮影,美術,録音,編集,視覚効果,作曲の6部門を受賞したが,これは映像技術の結晶であると同時に,“語りの形式”に対する再評価とも言える.すなわち,原作に忠実であることが制約ではなく,むしろ力動の源となることを証明した.過去に『デューン』の映像化に挑んだデヴィッド・リンチ(David Lynch)の1984年版は,スタジオの干渉もあって混乱をきたし,原作ファンには不評であった.リンチ自身も完成作を「自分の映画ではない」と否定している.また2000年のTVミニシリーズも限られた予算の中で健闘したが,ヴィジュアル面での限界が否めなかった.したがってヴィルヌーヴ版といえる本作は,ついに「失われた名作」を映像的に復権させた記念碑的作品といえる.神話的原型への現代的接続であり,砂漠の彼方に宿る未来像の再定義でもある.

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原題: DUNE

監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ

155分/アメリカ/2021年

© 2021 Legendary and Warner Bros. Ent.