| 1972年のニューヨーク.金融や保険業界で働いていたミルクは,20歳年下のスコットと出会い,恋に落ちる.二人は新天地を求めてサンフランシスコに移り住み,小さなカメラ店を開店.そこはたちまち同性愛者やヒッピーたちのよりどころとなり,ミルクは彼らを快く思わない保守派に対抗した新しい商工会を結成する事になる.社交的でユーモアにあふれたミルクは,近隣住民の抱える問題に,政治的により関わりを深めていく…. |
結婚を男女間に限定したカリフォルニア州法は違憲との判決をカリフォルニア州最高裁が下したとき,歓喜に沸いた同性愛者たちは婚姻届を手に州内へと殺到し,その数は1万8,000組に達した.面食らった保守派やキリスト教原理主義者らは,州憲法そのものを書き換える政治運動を開始,結婚の定義を男女間に限定するという住民投票の結果,マイノリティの権利を否定する保守派が勝利を収めた.本作公開時の2008年,結婚を男女間のみに限定する「提案8号」が可決され,カリフォルニア州では同性婚が禁止された.同性愛者たちは,かつて「病気」「危険な存在」とされ,意思や感情を持つ市民としてすら扱われなかった歴史を背負っている.
1969年6月28日未明にニューヨークのストーンウォール・インで勃発した暴動は,その抑圧された怒りの爆発であり,同性愛者がもはや沈黙する存在ではないことを,体制側に向けて明確に突きつけた.サンフランシスコの同性愛者コミュニティで頭角を現すハーヴェイ・ミルク(Harvey Bernard Milk)は,同性愛を公言する人物として初めてアメリカで公職に就いた政治家であり,『タイム』誌が選ぶ「20世紀の100人の英雄」にも名を連ねた.2度の落選を経て1977年に市政委員に初当選したミルクの在職期間はわずか11ヶ月にすぎなかったが,政治的影響力はその短さをはるかに超える.ミルクは,同性愛の可視化とともに,高齢者や障害者,低賃金労働者などの社会的弱者と連携し,排除されてきた人々の連帯によってゲイ・コミュニティを圧力団体へと成長させた.
本作では,ミルクの象徴的な功績に焦点が置かれる一方で,彼がどのように社会的連帯を構築したのかという点に対する描写は薄い.同性愛者の救世主が卑劣な暗殺によって命を絶たれるまでの8年間を追い,彼自身が危機を予見して吹き込んでいた音声テープをなぞるように進行する.保守派が州憲法を変更するという徹底した政治姿勢を見せると同様に,ミルクもまた,社会から排除されていた層の共感を結集させ,戦略的に対抗した.その政治姿勢は,権利を勝ち取る戦略的意志に貫かれていた一方で,ミルクの活動は必ずしも一般市民層の支持を取り付けたわけではない.いわゆるノンポリなマジョリティ層は,カリスマに感化されることなく,静観を保っていた.
もしミルクの政治活動が続いていたならば,次なる課題は,リベラル層にとどまらない一般層への支持基盤の拡充にあったに違いない.ショーン・ペン(Sean Justin Penn)が模倣を超えた凄みでミルクを演じる.ジェームズ・フランコ(James Edward Franco),ジョシュ・ブローリン(Josh Brolin),エミール・ハーシュ(Emile Hirsch),といった脇も手堅い.同性愛者はクローゼットに閉じこもるな――恥じることなく可視化せよという信念を持ち続けたミルクの姿勢は,今日のLGBTQ+運動の原点でもある.ただし,当時の同性愛者たちの多くは,家族や故郷と縁を切るほかなかった.社会運動の昂揚とは裏腹に,彼らが背負わされていた「罪業」は不可視のままであり,それゆえにミルクの周囲に漂いはじめていた政治的コミュニティの「歪み」を修正することは誰にもできなかった.
† 追 記 †
2013年,連邦高裁は「提案8号」を違憲とする判決を下し,カリフォルニア州で同性婚が再び合法化された.
2015年,連邦最高裁も同性婚を認めない州法が違憲であると判断し,全米で同性婚が合法とされた.
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原題: MILK
監督: ガス・ヴァン・サント
128分/アメリカ/2008年
© 2008 FOCUS FEATURES LLC.
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