■「激突!」スティーヴン・スピルバーグ

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 商談に向かうため,ハイウェイで乗用車を走らせていた男.彼は,前をゆっくりと走っていた古びたトラックを追い越すが,そのトラックは怒ったように彼の車を抜き返す.先を急ぐ男は,トラックが「先に行け」という合図を送ってきたのを見て再び追い越そうとするが,今度は対向車と正面衝突しそうになる.トラックの悪意に気づいた男は愕然とするが,それは恐怖の始まりにすぎなかった….

 ティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)が25歳で監督したTV映画でありながら,その完成度と緊迫感により,後に劇場公開され国際的な注目を集めた異例の作品である.原作はホラーやSFで知られる作家リチャード・マシスン(Richard Burton Matheson)による短編小説だが,視覚的な言語によって恐怖を増幅させている.撮影に使われたピーター・ビルト281型トラックは,数あるトラックの中でも無骨で威圧感のあるフォルムを持ち,その顔つきからスピルバーグは車両を選んだ.実際に何十台ものトラックを見て回り,まるでモンスターのようなトラックと評した機種に決定した.トラックのフロントグリルには動物の骨や動物のナンバープレートがぶら下がっており,撮影用トラックを整備したスタッフがドライバーの狂気を暗示するために意図的に施した演出である.つまり,トラックは「人間の悪意の具現化」として描かれている.

 スピルバーグは撮影当時,テレビ業界の新人に過ぎなかったが,編集や音響に至るまでの細部を緻密にコントロールし,後の巨匠としての片鱗を見せていた.音響面では,トラックのエンジン音やクラクション,タイヤの軋む音などが徹底して強調されており,台詞の少ない構成にも関わらず,観客は視覚と聴覚の両方から緊迫感を感じ取る.これはスピルバーグが尊敬していたヒッチコック映画のサイレント期演出に倣ったものであり,トラックそのものを無言の敵と設定した点にセンスが凝縮されている.さらに,トラックの運転手は最後まで素顔を見せず,わずかに映る手元だけが人間らしさを持つ唯一の手がかりである.スピルバーグはこの点について,「悪意には顔がない.観客が想像する分だけ恐怖は拡張される」と語っている.この演出意図は後の「ジョーズ」(1975)に受け継がれ,見えない恐怖の演出法として確立されていく.

 主人公のビジネスマンが乗っているのは当時としてはかなり小型の赤いプリマス・ヴァリアント.この車はアメリカの象徴たるマッスルカーとは正反対の,非力な存在である.つまり,主人公は「大衆の代表」であり,対するトラックは「暴力的システムの象徴」と解釈できる.これは,1970年代アメリカに漂っていた政治的不信感や,大衆の無力感の寓話的投影でもある.スピルバーグは本作で「時間の伸縮」という映画的技法を大胆に試みている.冒頭でビジネスマンがラジオを聞きながら退屈な郊外道路を走るシーンが非常に長く感じられる一方,トラックが現れてからのシーンでは数秒が数分に感じられる.このテンポの操作により,観客は日常が突然崩れる恐怖に没入させられる仕掛けになっている.TV放映直後,映画関係者の間では新人の手によるテレビ映画ではない,という噂が立ち,スピルバーグは「次の大物」と注目されるようになる.

 フランスの映画批評家たちはこの作品を大絶賛し,カンヌ国際映画祭では正式出品こそされなかったものの,映画人の間でサイレントの復権として大きく取り上げられた.したがって本作は,テレビ映画という枠を破り,国際的評価を勝ち取った最初期の例のひとつでもある.ABCネットワークの幹部たちは,結末に満足しなかった.完成した映画を見た後,ABCはトラックのタンクに「可燃性」のラベルが貼られていたため,劇的な転落シーンを壮大な爆発に置き換えるよう要求した.しかし,スピルバーグはトラックを機械ではなく怪物として扱うことを選択し,トラックを死にゆく獣のようにゆっくりと,そして苦痛に満ちた方法で殺すことに決めていた.ラストの崖から落ちるトラックのシーンにおいて,落下する際の音に吠えるような恐竜の鳴き声を混ぜた.この効果音は「ジョーズ」のサメの死にも再利用されている.スピルバーグは,トラックと運転手の姿を借りた悪意とその断末魔を最後に示唆するため,この咆哮を加えたのである.

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原題: DUEL

監督: スティーヴン・スピルバーグ

89分/アメリカ/1971年

© 1971 Universal Studios