■「MIFUNE: THE LAST SAMURAI」スティーヴン・オカザキ

MIFUNE:THE LAST SAMURAI [DVD]

 スティーブン・スピルバーグ,マーティン・スコセッシ――世界の映画人に愛された名優・三船敏郎の波乱万丈な人生や,その精神に迫る!鋭く優しい眼光,躍動感あふれる演技,目にも留まらぬスピードと芸術的な殺陣,そのすべてが世界を魅了した"日本のサムライ"三船敏郎.没後20年経った今も彼の魅力は世界中のファンの心を惹きつけて離さない….

 画史において燦然と輝く三船敏郎の生涯を追った本作は,人物像と俳優としての足跡を掘り下げた貴重な記録である.三船は,黒澤明監督との16作品に及ぶ共同製作で世界的名声を築いた.代表作「羅生門」(1950),「七人の侍」(1954),「用心棒」(1961)は,日本だけでなく,世界の映画史においても重要な位置を占める.「羅生門」は,1951年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞,日本映画を国際的に認知させた歴史的な一作である.本作は,三船の生い立ちからそのキャリアの頂点,そして晩年に至るまでを時系列で追っている.映画の冒頭で描かれるチャンバラ――日本の剣戟映画――の歴史は興味深い.サイレント映画時代の貴重な映像が紹介されており,その中には「長恨」(1925)の唯一現存するシーンも含まれている.映画史の背景を織り交ぜることで,三船の存在がいかにしてこのジャンルを革新したかが伝わってくる.三船は中国で生まれ,青年期に日本に渡り,戦時中は日本軍に従軍した.

 戦後の混乱期,映画界へと足を踏み入れることになる.元々はカメラ助手を志望していたが,偶然受けた俳優のオーディションでその才能を見出された三船に対し,黒澤明は,三船の野性味とエネルギーに注目した.「醉いどれ天使」(1948)で起用以降,2人の共同作業は日本映画の黄金期を支える柱となった.本作では,三船の息子である三船史郎,黒澤組のスクリプターとして活躍した野上照代らがインタビューに応じており,三船の家族や現場での姿が具体的に語られる.スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg),マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)といったハリウッドの巨匠たちが,三船の演技と存在感について賛辞を惜しまない姿も印象的である.「羅生門」での三船の演技について,スコセッシは檻の中の獅子のようだったと絶賛している.「蜘蛛巣城」(1957)のクライマックスシーンで三船が矢に追われる場面は,実際に本物の矢が大学生によって射られていたという.保険もない状態で行われた撮影は,三船のプロ意識を物語る逸話として広く知られている.

 豪快に見えても繊細さを持っていた三船が海外進出を果たした逸話も興味深い.ジョージ・ルーカス(George Walton Lucas)が「スター・ウォーズ」(1977)のオビ=ワン・ケノービ役に三船を起用しようとしたが,断られたというエピソードも紹介されている.その理由として,三船が当時の特撮技術に不信感を持ち,海外のSF作品が日本文化を誤解させるのではと懸念していた点が指摘されている.アメリカ建国200周年を記念して製作された「ミッドウェイ」(1976)に出演した際,チャールトン・ヘストン(Charlton Heston),ヘンリー・フォンダ(Henry Fonda)との共演が話題となった.三船は山本五十六役で強さと誇りを持ったキャラクターを演じ,西洋における日本人像を刷新するきっかけとなった.三船の身体能力と表現力は,多くの共演者や監督たちから絶賛され,「七人の侍」の剣術シーンでは,実際に武道の訓練を積んでいたことが功を奏し,動きの精確さと迫力が画面にリアルに映し出された.

 撮影中,自らの提案で刀の持ち方や動作を工夫し,時代劇における殺陣のスタンダードを作り上げたとされる.しかし,このドキュメンタリーには惜しい点もある.三船と黒澤が袂を分かった理由や,家庭内不和,アルコールに溺れた晩年の苦悩については触れられていない.三船が出演した膨大な数の映画のうち,黒澤作品以外の重要な作品,「侍」(1965)や「風林火山」(1969)などの言及が少ないことも物足りなさを感じさせる.三船が出演した海外作品や,プロデューサーとして関わった映画についても掘り下げが見られない.しかし,これらの省略は,全体として敬意あるトーンを保つための選択であったといえるだろうか.本作は,80分という短い上映時間の中で,三船敏郎の生涯とその功績を鮮やかに描き出している.観終わった後,三船の出演作を改めて鑑賞したくなること請け合いである.三船は,日本映画文化の象徴,そして国際映画界への架け橋として,その名を永遠に刻み続けている.

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原題: MIFUNE - THE LAST SAMURAI

監督: スティーヴン・オカザキ

80分/日本/2015年

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