
| 2枚の絵画が何者かに盗まれた.画家は犯⼈を突き⽌めるも,犯人は「覚えていない」の⼀点張り.「あなたを描かせて――」画家の突然の提案から,思いも寄らない2⼈の関係が始まる…. |
ノルウェーの首都オスロで2015年に発生した絵画盗難事件を題材にした本作は,予想外の友情と人間の複雑な感情,信頼関係を描き,余韻を残す作品である.この事件は,チェコ出身の画家バルボラ・キシルコワ(Barbora Kysilkova)の写実的な大作《クロエとエマ》《白鳥の歌》が,ギャラリーから盗まれたことに端を発する.絵は4×6フィートという巨大なキャンバスで描かれており,犯人たちは慎重に釘を抜き,フレームから作品を無傷で取り外すという高度な作業を遂行した.大胆かつ巧妙な手口により,事件は瞬く間に注目を集めた.
犯人の1人カール・ベルティル(Karl-Bertil Nordland)はほどなくして逮捕されるが,絵画の行方について「覚えていない」と供述する.ベルティルはドラッグ中毒と犯罪歴を抱え,事件当時は薬物の影響下にあったという.バルボラは裁判の傍聴に現れ,驚くべき提案を彼に投げかけた.「あなたをモデルに絵を描きたい」――この一言は,画家と泥棒の関係に予期せぬ変化をもたらし,物語の核心となる.ベンヤミン・リー(Benjamin Ree)は,3年間にわたり2人の関係を追い続けた.ベルティルは裁判で「絵を盗んだのは,それが美しかったからだ」と語る.この言葉はバルボラに強く響き,彼女はベルティルをモデルに絵を描き始めた.
そこで明らかになるのは,ベルティルが抱える孤独や暗い過去,依存症との闘いである.肖像画を描く過程は,バルボラの内面的な葛藤も浮かび上がらせる.彼女自身もまた,暴力的な過去やアイデンティティの模索に悩んでいた.本作は,芸術と犯罪という相容れないテーマを融合させながら,邂逅とは何かを考えさせる.被害者と加害者という関係を超えた2人の交流は,いつしかそれぞれの傷や希望を共有する関係を築いていく.バルボラとパートナーのカップルセラピーの場面は,ベルティルとの関係がいかに彼女の人生に影響を及ぼしたかを浮き彫りにする.パートナーとの信頼関係に亀裂が走る様子は,人間の親密さとその影響について考えさせ興味深い.
編集技術も見事である.異なる視点や時間軸を巧みに組み合わせ,ミステリーのような緊張感を生み出している.ウーノ・ヘルマーソン(Uno Helmersson)によるメランコリックなスコアが,作品全体の雰囲気をさらに引き立てている.本作の核心には,許しと共感,そして人間の可能性に対する洞察がある.過去を悔やみ更生に向かうベルティルの言葉,バルボラの芸術を通して,人間の救済の可能性が繊細に描かれている.ノルウェーの小さなアトリエで始まったこの物語は,やがて普遍的な人間性の探求へと昇華する.この映画が示すのは,人生の中で失われたものや破壊されたものが,時に新たな形で再生する可能性である.
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原題: KUNSTNEREN OG TYVEN
監督: ベンヤミン・リー
102分/ノルウェー=アメリカ/2020年
© 2020 Medieoperatørene, VGTV
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