| ダニー・ローマンは,シカゴ警察東地区で抜群の腕を持つ人質事件の交渉人.だが年金にからむ汚職と殺人の濡れ衣を着せられたローマンは,内務捜査局のオフィスに乗り込んだ挙句,捜査局員を人質に篭城してしまう.これまでの経験から人質篭城に関してノウハウを知っているローマンは,西地区の凄腕交渉人クリス・セイビアンを窓口役として逆指名する.ローマンの要求はただひとつ,真犯人を探し出せということだった…. |
犯罪スリラーの枠を超え,緊迫感と心理戦の妙技が観る者を圧倒する.主演のサミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)演じるダニー・ローマン警部補は,同僚から汚職と殺人の冤罪を着せられ,追い詰められた末に人質を取るという究極の選択をする.一方,ケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)演じるクリス・セイビアン警部補は,ローマンを説得するために呼び出され,両者の高度な駆け引きがストーリーを牽引する.ストーリーは,1988年のセントルイス年金基金スキャンダルという実際の事件に着想を得ている.元警察官アンソニー・D・ダニエレ(Anthony D. Daniele)は,警察と消防署の年金基金から横領し,基金に33万3,000ドルの損害を与えた罪で,懲役8年の判決を受けたばかりだった.
ダニエレは交渉人ではなかったが,ダニー・ローマンのキャラクターと同様に,警察の人質対応チームの一員だった.判決の翌日,ダニエレは自分を告発した市警察委員会の副会長ジョン・フランク(John Frank)のオフィスに行き,彼を人質にした.映画と同様,この籠城事件はオフィスビルの高層階で起こっている.捜査局とのにらみ合いはダニエレが諦めるまで15時間続いた.映画におけるローマンの行動や状況は,事件の緊張感や道徳的ジレンマを巧妙に再現している.ローマンがセイビアンを交渉相手として指名するという選択には,冷静な計算があった.セイビアンが別の管区の出身であり,内部汚職の影響を受けていないと見込んだためだ.この選択が物語の緊張感を高め,観客は2人の間で繰り広げられる心理戦を楽しむことができる.
ローマンがセイビアンに「絶対にノーとは言わない!」と熱弁するシーンは,交渉人としてのプロフェッショナリズムを明かす名場面である.当初,ローマン役はスペイシーが予定され,シルベスター・スタローン(Sylvester Enzio Stallone)が交渉役を演じるはずだった.しかし,スタローンが辞退しスペイシーがセイビアン役を希望したため,L・ジャクソンがローマン役にキャスティングされた.この変更は,実力派の俳優2人による息詰まる心理・頭脳戦を実現させ,結果として成功だった.ジャクソンは追い詰められた男の焦燥感と知性を見事に表現し,一方のスペイシーは冷静沈着ながらも情熱を秘めた交渉人を体現している.西部劇「シェーン」(1953)のラストシーンで去っていくシェーンの生死をめぐる2人の議論は,「死」の実体と象徴を共有し,事件解決に向けた符号となっていて面白い.
ポール・ジアマッティ(Paul Giamatti)演じる人質役ルーディは,緊張感の中にユーモアをもたらし,映画に絶妙なバランスを加えている.撮影の多くはロサンゼルスのスタジオで行われたが,シカゴのスカイラインを再現するために160フィート×40フィートの巨大なポスターが作られ,77 West Wacker Drive 20階に設置された.観客は誰が真犯人なのか,また誰が信頼できるのか最後まで見極められないよう巧妙に設計されており,これが物語のスリルを一層高めている.超高層ビルの外の夜間の群衆シーンは,1997年9月の2夜連続,午後5時から午前7時頃まで撮影された.冷たい雨と風のため,多くのエキストラが耐えきれず夜中に脱走し,製作アシスタントと敵対関係に陥ったという.
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原題: THE NEGOTIATOR
監督: F・ゲイリー・グレイ
139分/アメリカ/1998年
© 1998 New Regency
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