| 作曲家になる夢を捨てきれず,生活の為に仕方なく高校の音楽教師になったホーランド.教師の経験などもちろん無い.待っていたのは音楽に対してまったく関心のない,やる気のない生徒たち.しかし,子供たちのもっている可能性に気づいた彼は,音楽の素晴らしさを彼らに教えようと決心する.その後,子供が産まれ父親になったホーランドだが,最愛の息子の耳は生まれつき聞こえなかった…. |
教育の成果には長い目が必要とされる.音楽家を目指したグレン・ホランドは,生活のため妥協し高校の音楽教師となる.しかし音楽に携わり,創作意欲を維持したい願望を捨て去ることはできず,何とか妥協の中での自己実現という難しい折り合いをつけようと苦しむ.別段子ども好きでもないが,音楽との接点を喪失しない一縷の望みこそ,音楽教師という地位であった.1965年から1995年までの30年間,音楽科目を通じて,ホランドは無数の学生の成長を間近で見る.入職一年目に担当した女子生徒ガートルードは,優秀な兄姉と比較され,劣等感に押し潰されそうになっていた.彼女の絶望感にどう接していいかわからないホランドは,音楽の楽しみを放棄しないことを伝えることを心がける.
ある年に出会った男子生徒ルーは,学業は最低レベル,音楽センスも皆無.体育教師の計らいでマーチングバンドのドラムを担当させられたルーへの指導は,大変な根気を要するものだった.1972年に出会った男子生徒スタドラーは,学力は高いが音楽教科に批判的だった.ベトナム戦争で戦死したルーの葬儀にスタドラーを連れ出すホランドは,音楽を通さず,言葉も多く費やさず彼を指導した.1980年の女子生徒ロウェーナは,ホランドにとって特別な学生だった.演劇祭で《ガーシュイン・メロディ》のヒロインに選出されたロウェーナの音楽的才能を伸ばすため,個人指導をする中で双方に恋愛感情が芽生える.一方,多忙を極める教師であると同時に,ホランドは自作《アメリカ交響曲》を少しずつ完成に近づけていた.
同じ年,ホランドの最大の理解者で妻アイリスとの間に生まれていたコールとの邂逅がなされる.職務として音楽教育に没頭する中で,ホランドは聾唖の息子から逃避していた.そのことを率直に認める自己表現に,耳の不自由な子たちのために開いた「振動と光の音楽」コンサートで披露される《ビューティフル・ボーイ》.分裂寸前だったホランド一家の危機は回避された.定年退職するまでに,ホランドは音楽家として大成することはなかった.教育予算削減の方針が芸術科目に降りかかることを危惧し,校長や教育委員会と対決姿勢を強める.一体,どこで彼は音楽家から教育者へと節を変じたのか.30年間の多彩な顔ぶれの学生への教育的関与,そして家庭内危機を乗り越えるための努力と譲歩.それら総体的な蓄積こそ,知らず知らずのうちに社会貢献となり,かつ自尊の矜持になりえていたのである.
ガートルード.ルー.スタドラー.ロウェーナ.そして最愛の家族コールとアイリス.すべて,音楽を介在させた人格的交流だった.ホランドが人生すべてを懸けて奏でる交響曲シンフォニーの一つひとつが,ジョン・F・ケネディ高校から飛び立っていた.教育は長い時間をかけ,見事な成果を結実させる.それを望まずして教職に就いたホランドこそ,自他の成長と円熟の軌跡を楽器やダクトで描き切ったのである.劇中で演奏するピアノも吹き変えなしで披露するリチャード・ドレイファス(Richard Stephen Dreyfuss)は,ぎこちないが,きわめて人間臭い.ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)《交響曲第5・第7番》,バッハ(Johann Sebastian Bach)《ト長調メヌエット》,ガーシュイン(George Gershwin),レイ・チャールズ(Ray Charles Robinson)らの曲が効果的に挿入され,ホランドの作品を荘厳に,時に軽妙に彩っている.
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原題: MR. HOLLAND'S OPUS
監督: スティーヴン・ヘレク
144分/アメリカ/1995年
© 1995 Hollywood Pictures
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