| 異常に毛深い体質のライラは,普通のふりをし続けるために毎日毛を剃らなければならなかった.彼女はネイサンという科学者と出会うが,彼はネズミにテーブルマナーを叩き込むことに没頭していた.森へ散策に出かけた二人は,ホンモノの野生人に遭遇するというとんでもない発見をし,野生人をパフと名付ける.ライラはパフに強い親近感を覚えるが,一方でネイサンは,密かにパフにテーブルマナーを教え込もうと考えていたのだった…. |
チャーリー・カウフマン(Charlie Kaufman)は前作「マルコヴィッチの穴」(1999)で特異な作風を確立し,ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)はMVの分野で革新的な視覚表現を開拓してきた.本作は,人間の本能と文明の衝突というテーマを中心に据えながらも,荒唐無稽に哲学的問いを秘めた物語を展開する.しかし,斬新さに頼りすぎたあまり,全体としてまとまりを欠いている印象は否定できない.物語の主軸となる3人のキャラクターは,それぞれ異なる側面からテーマを具現化している.濃い体毛に覆われた自然作家ライラは,人間の自然回帰と社会的疎外を象徴している.進化心理学者デズモンド・モリス(Desmond Morris)『裸のサル』や,カウフマンが抱く人間の「ありのまま」への関心に触発されたものだ.しかし,奇抜な外見設定が観客の関心を引く一方で,ライラの内面的葛藤が十分に掘り下げられていないため,感情移入は難しい.科学者ネイサンは,性衝動を厳しく抑圧された幼少期を背景に持ち,科学的合理主義と人間の本能の葛藤を象徴する.
ネイサンの研究対象となる野生人パフは,実際に行われた心理学の実験(例:スキナーのオペラント条件付け)を風刺している.極端に描かれた風刺的なキャラクターは現実感を欠き,辛辣なコメディの空気感で話は進行する.パフは,猿のように育てられた野生児として,文明社会に適応する過程でその矛盾を明らかにする.彼が訓練を受ける場面では,電気ショック首輪を使用した演出があり,笑いを誘う一方で不快感を与える.カウフマンはこうした描写を通じて「人間とは何か」を問うが,ギャグ要素が優先された結果,テーマの深みが損なわれる部分も多い.ゴンドリーの視覚表現は,映画にシュルレアリスティックな雰囲気を与え,実験的な映像美を展開している.ストップモーションを用いた回想シーンは,ゴンドリーが幼少期を過ごしたフランス南部の自然を再現するなど,個人的な体験を反映しているという.しかし,ビジュアル表現が物語のテーマやキャラクターの内面に十分寄与しているかと言えば疑問が残る.視覚的魅力が優れている分,物語構造や脚本の不整合が目立つ結果となっている.
音楽を手掛けたグレーム・レヴェル(Graeme Revell)は,キャラクターごとにテーマを設定し,映画の奇抜なトーンを補強した.パフが人間社会に適応しようとする場面では,不協和音を取り入れることで不安感を引き立てる演出を試みた.しかし,監督と作曲家の間で意見が分かれ,一部の楽曲は撮影後に急遽変更された.製作上の混乱が,映画全体のトーンの不一致に影響を及ぼした可能性がある.クライマックスでは,パフが議会で人間と自然の乖離について証言する場面が描かれる.このシーンは,シニカルなユーモアに満ちているものの,映画全体の流れからは浮いている感が否めない.さらに,キャラクターたちの運命を暗示するエンディングも,観客に満足感を与えるというよりは,多くの疑問を残す形で締めくくられている.カウフマンは当初,より暗いトーンのエンディングを構想していたが,スタジオの要請で変更を余儀なくされたという.
脚本は鋭い観察力と独特のユーモアに満ちているが,アイデアの断片がつながりを欠き,物語全体に統一感をもたせていない.本作をどのように評価するかは,その奇抜さや哲学的問いにどれだけ感受性を持つかにかかっているだろう.パトリシア・アークエット(Patricia Arquette)は,ライラの役柄に身を委ねるため,髪の毛が体に張り付いて,撮影の合間に座ることができないという状況に耐えなければならなかった.ロサンゼルス周辺での撮影中はツタウルシに悩まされたが,森の中を裸で走っていたら,突然,散歩に出てきたアウトドア愛好家たちに出会った.人々はシダの写真を撮っていたが,「見ろ,裸で走っているのはパトリシア・アークエットだ!」と叫んだ.スタジオは当初,「マルコヴィッチの穴」の成功を受けて,スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)に監督してもらうことを考えていた.ジョーンズは検討した結果,製作に回ることを選択し,代わりにゴンドリーを提案した.森のシーンの多くは,ゴンドリーが監督したビョーク(Björk)のMV《ヒューマン・ビヘイビア》のシーンを暗示,あるいは再現したものである.
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原題: HUMAN NATURE
監督: ミシェル・ゴンドリー
94分/フランス=アメリカ/2001年
© 2001 New Line Cinema
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