| たてつづけに起こる連続殺人は,ポーのアリバイを証明することになり,ポーは容疑者から一転,著作を汚す犯人を追うことを決意する.しかし,謎の殺人鬼は,ポーの婚約者エミリーを誘拐し,ポーに殺人の偉業を新聞に連載するように「挑戦状」を叩きつけてきたのだった.“死体”に残された殺人鬼からメッセージ.見逃したトリック.そして,奪われた恋人の行方を指し示す暗号.散りばめられたパズルを完成し,ヤツを捕えることができるのは,すべてを知り尽くしているポーしかいない…. |
エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)の死は,その劇的な人生を象徴するかのような謎めいた終焉であった.泥酔状態で泥まみれのまま発見され,幻覚に苦しみながら何かを口走り,興奮と妄言を繰り返した後,1849年10月7日に「神よ,この憐れな魂をお助けください」と叫んで絶命したと伝えられている.死の前夜,ポーは「レイノルズ」という名前を繰返し呼んでいたという.死亡証明書を含む医療記録はすべて失われており,死因については未だに多くの憶測を呼んでいる.悲劇的な最期の5日前,ポーは移民が行き交うボルティモアで姿を消していた.
本作ではボルティモアを表現するため,ハンガリーのブダペストが撮影地に選ばれた.この選択は成功したとは言いがたい.ポーの文学世界は,孤独と狂気に彩られたゴシック調の耽美主義で知られる.短編「落とし穴と振り子」をモチーフとして,振り子で真っ二つに切断される男はルーファス・ウィルモット・グリズウォルド(Rufus Wilmot Griswold).作家兼批評家としてポーの死後に彼を貶める活動を展開した人物である.グリズウォルドはニューヨーク・トリビューン紙にポーの死亡記事を書き,さらに伝記でポーを堕落した酒飲みで麻薬中毒者の狂人として描いた.
ポーの死後,グリズウォルドは遺されたポーの著作を盗み取り,遺言執行者を自称して利益を独占した.グリズウォルドによる虚偽の描写は数十年間にわたりポーの評価を方向づけ,ポーの実像を歪める結果となった.後年に芥川龍之介は随筆「ポーの片影」で"事毎にポーに反噛し,毒ついた男で,唯それだけで芸術史上に名を残された男"と断じている.ポーの文学とその受容史を振り返るとき,多面的な存在として再評価する必要がある.人生の悲劇と死後の名誉の失墜さえも,作品が持つ怪奇と幻想の魅力を増幅する一因となっている.
原作の興趣が映画ではどのように生きているのか.残念ながら,完全に粉砕されていると言わざるを得ない.ポーの小説から断片的な要素をつまみ食いするだけで構成された映画は,体育会系のポーが雄叫びを上げて走り回るという,原作の持つ繊細な審美性を冒涜する形に仕上がっている.エンドクレジットには"Amontillado Productions"と記されている.Amontilladoという名称は,スペインのアンダルシア地方のワイン「アモンティリャード」に由来している可能性が高い.それ以上にポーの短編小説「アモンティリャードの樽」への言及であると考える方が妥当であろう.
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原題: THE RAVEN
監督: ジェームズ・マクティーグ
110分/アメリカ/2012年
© 2011 Incentive Film Productions, LLC.
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