▼『スモモの木の啓示』ショクーフェ・アーザル

スモモの木の啓示 (EXLIBRIS)

 十三歳の末娘バハールの目を通して,イスラーム革命に翻弄される一家の姿が,時に生々しく,時に幻想的に描かれる.『千一夜物語』的な挿話,死者や幽鬼との交わり,SNSなどの現代世界が融合した,亡命イラン人作家による魔術的リアリズムの傑作長篇――.

 者と死者の間にある深い繋がりを探求する物語である.1979年のイラン革命後の10年間を舞台に,13歳の少女バハールの視点を通して語られる家族の叙事詩である.革命の混乱が家族の生活を変える中,文化的遺産の美しさ,抑圧的な政治体制の暴力が鮮やかに描かれている.アザールは物語を通じて,トラウマの中で語ることや想像力がどのように救済をもたらすかを探求する.幽霊となったバハールの語りは,死者の視点から生者の苦しみや希望を映し出し,物語の構成に新たな視点を与える.バハールの家族は,テヘランの自宅を捨て,イラン北部の村で新しい生活を模索するが,避難所も革命後の狂気と混乱から逃れることはできない.母親の波乱に満ちた旅,兄弟姉妹の苦難,そして失われた土地への哀惜が,読者の感情的共鳴を誘う.

 本作にはペルシャの民間伝承や神話が織り込まれており,ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez)『百年の孤独』を彷彿とさせる魔術的リアリズムの手法が多用されている.ジンや幽霊,黒い雪といった幻想的な要素が,物語の現実的な背景と巧みに融合され,抑圧的な体制の中で文化や文学が果たす役割が象徴的に描かれる.家族が『百年の孤独』を読んで兵士たちがその内容を疑問視しないエピソードは,魔術的リアリズムへの巧妙なオマージュである.しかし,この作品が持つ独特の静けさは,革命や戦争の騒乱の中でも,一貫して静謐なトーンを保ち,メランコリックでありながらも詩的な表現で満たされている.この静けさは,物語が扱う重いテーマ――トラウマ,喪失,抑圧――を一層引き立てている.

 1980年代に宗教戦争によって家族が引き裂かれるエピソードでは,母親が息子を埋葬する際に足首に鈴を結びつける.この行為は,喪失と記憶の重さを静かに語る一方で,この作品にはいくつかの批判点も存在する.物語のプロットは時折散漫であり,クライマックスや結末が弱いと感じられる.西洋の読者を主な対象としているためか,イラン革命の背景に関する具体的な歴史的説明が不足している.この点において,読者はイランの社会的,政治的文脈を理解することが難しいかもしれない.著者の文学的試みが一部の読者にとっては過度に幻想的と映る可能性もある.

 とはいえ,本書は,イランの歴史と文化に根ざしながらも,人間の強靭さ,想像力,記憶の重みを扱う野心的な作品である.消えゆく世界への惜別のメッセージであり,同時に未来への希望を紡ぐ営みといえるだろうか.著者が2011年にオーストラリアに移住し,政治亡命者として新たな生活を始めた経緯は,この作品の背景をさらに深めている.英語に翻訳されたこの作品で,イラン革命後の痛みと混乱を西洋の読者に伝えようとした試みは,文学を通じて文化的な架け橋を築く意欲を示している.本書の評価は分かれるかもしれないが,バハールの語る物語は,抑圧と自由,喪失と再生というテーマに対する問いかけを含んでおり,イラン文学と魔術的リアリズムの新たな地平を切り開いた作品として記憶されるだろう.

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Title: THE ENLIGHTENMENT OF THE GREENGAGE TREE

Author: Shokoofeh Azar

ISBN: 9784560090718

© 2022 白水社