| ニュートン(1642―1727)は力学や数学と同じように,いやそれにも増して光学の研究に前人未踏の分野をきりひらいた.本書はその集大成であり,太陽の白色光が屈折率を異にする色光の複合から成ることを発見した実験をはじめ光の干渉・回折などを臨場感いっぱいに記述する.完成度のもっとも高い原書第3版の決定訳――. |
光に関する学問は,物理学の中で独自の発展を遂げてきたが,起源をたどると哲学や神学の秩序と結びついている.幾何光学は光を直線の集合として捉え,物理光学は光の波動性を研究対象とする.アイザック・ニュートン(Isaac Newton)以前の光学は,形而上学的な意味合いを帯びており,古代ギリシアからルネサンス期の新プラトン主義に至るまで,光は神聖な知恵の象徴として扱われていた.ニュートンの光学研究は,光を数理科学的対象として新たな地平に引き上げた.ニュートンは,1661年にケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学し,標準的な教育課程を超えて独学で自然科学研究を始めた.影響を受けたのは,ルネ・デカルト(René Descartes)『幾何学』とヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler)『屈折光学』,ルーカス講座初代教授アイザック・バロー(Isaac Barrow)である.
ルーカス講座は,当時の科学教育が体系的に行われた数少ない場の一つであった.ニュートンの光学研究の中核を成すのは,白色光の本質を解明した一連の実験である.プリズムを通じて太陽光を分光し,赤から菫までのスペクトルを観察した結果,白色光が単一の色ではなく,異なる波長を持つ複数の色光の混合であることを示した.この発見は,白色光は純粋であり,屈折によって初めて色が生じるという従来の通説を覆した.さらに,物体の色がその表面の反射特性に依存することを示したことで,色彩に関する理解を根本的に変革した.ニュートンの光の理論は,18世紀の文学において,光と影をテーマにした寓話や文学的表現に反映された.詩人アレキサンダー・ポープ(Alexander Pope)は,ニュートンを称え,混沌の闇に光をもたらした人と謳った.
本書は,三部構成で書かれている.第一篇では,光の屈折と反射,色彩の本質を扱い,1672年に王立協会で発表された光と色の新理論が基になっている.第二篇では,"ニュートン・リング"と呼ばれる干渉現象を数量的に説明し,膜の厚さと色の関係を明らかにした.第三篇では,光の回折現象を扱い,その末尾に付された"Queries"では,光学の枠を超えて物質観や神観――神学的視点――までもが議論されている.Queriesは初版では16個であったが,版を重ねるごとに増え,最終的には31個に達し,後の科学者たちに探究すべき課題を提示した.ニュートンが光学に注いだ情熱は,科学的業績の中でも異彩を放っている.光学理論は『プリンシピア―自然哲学の数学的諸原理』に匹敵する科学史上の転換点を示すものだった.
ニュートンの研究が1675年の王立協会で発表される際には,王立協会書記に提出した原稿の一部がジョン・ロック(John Locke)『人間知性論』の草稿に引用される形で影響を与えている.本書の中でニュートンが示した「光と色は神の創造の秩序」は,科学的な厳密さと神学的世界観が融合した概念である.プリズムを通した太陽光が虹色のスペクトルに分解され,プリズムを通した光をもう一度プリズムを通すと白色光に戻る.光の直進は光粒子がニュートンの第一法則に従う結果であり,反射と屈折は媒質面が光粒子に及ぼす反発力や引力によって起こる――近代科学の枠組みを超える光学は,分光学や色彩論といった周辺領域を含みながら,哲学的議論や芸術的表現にまで影響を及ぼし,学際的かつ多層的に拡大したのである.
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Title: OPTICKS
Author: Isaac Newton
ISBN: 4003390415
© 1983 岩波書店
