▼『Πの歴史』ペートル・ベックマン

πの歴史 (ちくま学芸文庫 ヘ 7-1 Math&Science)

 πとはいったい何者?円周率と名づけてはみたものの,値も素性も詳しくはわからぬままに始まったπの歴史.それは人類の歴史を映しだす小さな鏡だった.シラクサアルキメデス,紀元前3世紀のアレキサンドリア大学,科学書に火をつけ焼き払った中世の司祭や十字軍の物語であったし,中国や日本の和算家の物語でもあった.その後,πは円とほど遠い意外な場面に姿を見せ始める.オイラー数値計算は,ある規則の分数を加えてπの2乗や26乗を発見する!興味深いエピソードやあふれるユーモアを通して,数式に弱い人にも読書欲をかきたてるπの歴史物語――.

 2000年頃のバビロニア人は,円に内接する六角形から 3.125という円周率を算出,アルキメデス(Archimedes)は円に内接および外接する正九十六角形の面積を求め,円周率の値が3.140と3.142の間にあることを示した.1924年プラハ生まれの著者は,第二次大戦中にチェコ空軍航空中隊で物理学に傾倒し,1955年プラハ工業大学でPh.D.取得.チェコスロバク・アカデミーオブサイエンスで電波を研究,コロラド大学留学中にそのままアメリカへ亡命した.

 古代ギリシアの古典数学を"ローマという名のペスト",カトリックの異端審問を"狂信的精神異常者のふるまい"と痛罵している.3世紀半ばの魏の劉徽は,円周率の近似値として3.1416を得ていた.円周の長さを直径で割った比の値で無理数3.14159265358979・・・・「π」は,有理数無理数か,代数的数か超越数か.この記号をレオンハルト・オイラーLeonhard Euler)が1737年に採用して以来,107年間も数学者を苦しめかつ魅了し続けた.

Πの歴史は,数学史のごく小部分であり,その数学史はまた,人間の歴史の一側面にしかすぎない.その歴史は,偶発事として片付けるには,あまりに目につきすぎる頻度と類似性のあるパターンと傾向に満ちている

 本書は,せいぜい小数点以下数桁までの計算しか円周率の科学性・実用性はないと毫も疑わない.最も単純な原子の直径に等しい精度で,宇宙の半径460億光年の円周を計算するには,円周率の小数点以下39~40桁が必要になる.潜在的に居住可能な太陽系外惑星の発見には,特定の星の周囲ハビタブルゾーンの内外のエッジを特定しなければならない.そこでは,ケプラーの第3法則とともに,太陽系外惑星がその星の1つの完全な軌道を作るのにかかる時間を円周率で計算する.

 冥王星の「凍った心臓」などの珍しい形状には,円周率を応用して三角法または微積分が不可欠である.こうした探査的ツールとして,円周率が活用されるとは20世紀の共産主義学術圏でそこまで予想できなかった.著者は,驚異的な計算能力をもつ人々の大多数を<あほうな奴隷>と呼んでいるが,そうした奴隷の吐き出す数の群れを,どう扱うかの英知は発展し続けている.

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Title: A HISTORY OF PI

Author: Petr Beckmann

ISBN: 4480089853

© 2006 筑摩書房