| 1952年,喘息持ちだが“フーセル(激しい心)”の異名を取る23歳の医学生エルネストは,7歳年上の陽気な友人アルベルトとバイク旅行に出発する.本でしか知らない南米大陸を,自分の目で見たいという好奇心からの冒険旅行だった.故郷のブエノスアイレスを出発しパタゴニアへ.さらに6千メートルのアンデス山脈を超え,チリの海岸線沿いに南米大陸の北端を目指す1万キロ超の旅路だ.だが所持金は乏しい上,バイクは故障ばかり.2人の旅は困難を極めていく…. |
ボリビアで処刑されたチェ・ゲバラ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)の遺骨が発掘されたのは,処刑から30年後の1997年であった.処刑されるまでの2年間を,ゲバラは日記で仔細に記録していた.ゲリラ戦争論・社会主義経済建設論などについて論文を著し,リオ・グランデの支流沿いにゲリラ基地を設け,ボリビアでゲリラ作戦を敢行した.生涯彼を苦しめた喘息発作と闘い,その状況で指揮をとる自分を半ば突き放す客観的記述がなされた日記には,医学者でもあったゲバラのカルテ記録を思わせるような,客観的診断と分析が淡々と記録されている.
ブエノスアイレス医科大学時代,一年休学して先輩アルベルト・グラナドス(Alberto Granados)と1939年式オートバイ「ポデローサ2号」で南米大陸を横断,純粋なヒューマニズムが革命思想に飛躍するまでの「ゆらぎ」が,本作のゲバラの体験として描かれる.「チェ」とは親愛の情を込めたゲバラの愛称だが,キューバの子どもたちは今でもゲバラの憧れを歌で口ずさむ.この映画で躍動するのは,偉大な革命家,あるいは純粋なヒューマニストのイコンとしてのゲバラではない.現実主義のアルベルトと対立することも厭わない姿勢は,理想主義の萌芽.そして差別や矛盾に虐げられる人々を目の当たりにし,無垢にすら思える率直な憤り.
50年代の国際情勢を理解していなければ,北米を「侵略者」として厳しく糾弾した1964年12月11日の国連演説「祖国か,死か」の意味を正しく受け止めることは難しい.だがこの男の生き方に熱視線を注ぐのは,左右を問わない.正義や信念を持ち合わせることの難しさを問われる「感覚」を誰しも感じていて,烈しく燃え盛る炎のように生と時代を駆け抜けたゲバラに陶酔したいのだろう.若いころからの放浪癖により,ゲバラは南米の革命「世界のターニングポイント」を導く革命指導者の内面を構築した.ラテン・アメリカ深部への旅は,偉業の物語ではない.そこでの体験がゲバラの思想と行動の原点となったという視点,それがポートレートの鮮やかな定点観測となる.
アイデンティティの礎は,インカ帝国遺跡マチュピチュの威容と現代都市の浅ましき姿の対比,インディオの虐げられた生活実態,ハンセン病の悲惨さに直面した23歳の青年の繊細な「眼差し」で表現される.瞬間的に刻み込まれた心象は,おそらく革命思想を形成後も,心中に強い陰翳をもってシンボリックな像を結んだ.無言のうちに宿した信念の兆候は,すでに官能性をも予期させるものだ.同じ大志と夢を持った2つの人生がしばし併走した精神形成の軌跡は,一篇の教養小説を思わせる.叙情的な情景の静謐な美しさとともに,忘れがたい余韻の作品である.
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原題: THE MOTORCYCLE DIARIES
監督: ウォルター・サレス
127分/イギリス=アメリカ/2004年
© 2004 Focus Features
