▼『動物農場』ジョージ・オーウェル

動物農場 (角川文庫)

 人間たちにいいようにされている農場の動物たちが反乱をおこした.老豚をリーダーにした動物たちは,人間を追放し,「すべての動物が平等な」理想社会を建設する.しかし,指導者となった豚たちは権力をほしいままにし,動物たちは前よりもひどい生活に苦しむことになる.ロシア革命を風刺し,社会主義ファシズムを痛撃する二十世紀のイソップ物語――.

 体主義の監視・密告・粛清システムを特権階級が統制する陰惨なカリカチュアを描き出した『一九八四年』は,スターリン主義の腐敗を主たるテーマに置いた.本書は,そのような個人崇拝,大量粛清や官僚主義的指導がいかに生まれたか,その温床はどのようなものであったかを,擬人法と寓意の手法で述べたものである.人間の支配から脱却するために,動物たちが蜂起して人間たちを追放するが,ほどなく動物(プロレタリアート)の指導者層(豚)が実権を握り,新たな搾取構造を生み出す.

 カリスマ性をもった預言豚はウラジーミル・レーニン(Vladimir Il'itch Lenin),農場を追放されるスノーボールはレフ・トロツキー(Lev Davidovich Trotsky),スノーボールを襲った9匹の犬は国家秘密警察(KGB),ナポレオンはヨシフ・スターリン(Joseph Stalin),風車の建設は計画経済,豚一族はノーメンクラツーラ.きれいに対応する代名詞と解釈できる.「人間を追放した後も,彼らの悪習に染まってはならない」と彼らを先導した豚どもは,生産手段と生産物を恣意的に分配し,その眷属は肥え太る.

 権力を倒すプロレタリア革命も,本書の動物たちと同じ末路を辿らざるを得ない.着衣の豚がビールで乾杯して,トランプに興じる.搾取側の傲然たる態度そのものの諷刺である.他の動物は不満を覚えながらも,知識と思考力がないために豚に従属する.言語能力がなく,情報分析が不可能な被支配層には,シンプルなスローガン「四本脚よい,二本脚悪い」だけが信条となるよう無力なままに「指導」される.政治や政党・党派の矛盾は,ジョージ・オーウェルGeorge Orwell)のどの作品よりも明解な揶揄といえるだろう.

 戦後日本でのGHQ検閲を通った翻訳の第一号となった本書は,1945年に原著が刊行されている.スターリン主義の破綻は本来,独裁体制の権力機構の否定と考えられるべきものだ.だが,人間の編み出す政治体制は,多寡はあれ権力主義を包括する仕組みをとる.「民主主義は最悪の政治体制である――これまでのいかなる政治体制を別にすれば」と述べたウィンストン・チャーチル(Winston Leonard Spencer-Churchill)の言葉を捩れば,自由主義もまた最悪のはずだ.共産主義も含めた社会主義の失敗を鑑み,限りなく矛盾が噴出していることを見据えるならば.

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Title: ANIMAL FARM

Author: George Orwell

ISBN: 4042334016

© 1991 角川書店